指先が冷たい。
頬にその指先を当てる。
仄かな頬の火照りが、指先に気持ちいい。
布団から離れられないほどのしんどさはないけれど、立ち上がるのは億劫。
だから、毛布に包まったまま、ぼうっと座り込んで、夕焼けを眺めていた。
微熱がある休日は、生温い。
時間が早く過ぎているようには見えないのに、何もできない。
微熱のぼんやりとだるい体を、時間がずるずると溢れおちる、そんな感じ。
朝から頭がぼんやりと鈍かった。
脇に固い体温計を挟み込んで、熱を測った。
微熱があった。
私はもう、休日の微熱に狼狽え、落ち込むほど若い人間ではなかった。
微熱で誰かに頼りたいと思うほどの可愛げもなかった。
だから淡々と、体温計をしまって、べちゃべちゃのレトルト粥をあっためて食べ、途中で、塩気の強いハムをちぎって混ぜ込んで飲み込んだ。
あとは毛布に包まった。
なんとなくだるい体にかまけて、スマホで動画をつけて、窓なんかを見つめた。
薬は飲まなかった。
風邪薬や熱冷ましは、なんだかお門違いな気がした。
なんとなく、知恵熱だとか、疲れだとか、そんな感じに思えたからだ。
最近は確かに忙しかった。
予期せぬ、そしてあまりに早すぎる異動があって、振り回されたのだ。
しょうがないのだ。あそこに欠員が出そうだという話は前々からあったのだ。
しかし、あちらの都合のことだったから、思うことがないわけではなかった。
思えば、今月はずっと、モヤモヤしたものが胸につかえていた。
それが今日出たのだろう。
今日は朝から、体は、膨らます直前に薄く伸ばされたフウセンガムに覆われたように鈍く、脳がぬるま湯に茹っていた。
おかげで、今日の予定はポシャった。
髪を切りに行こうと思っていたのだけど。
ついでにカフェなんかに寄っちゃったり…
勤務日の平熱の中では眩しく見えたそれらの予定は、休日の微熱の中では、魅力を失っていた。
微熱には、ちょっとオシャレなお店や外の空気を吸って歩くよりなにより、毛布の中で流し見する動画が魅力的だった。
まあ、こんな日もあって仕方ないか。
弱い痛みを訴える、ぼんやりと鈍い頭でそんなことを考える。
夕日がゆっくり傾いている。
今日が終わっていく。
空は、微熱の頬のように赤く、赤く染まっていた。
11/26/2024, 2:05:27 PM