丸テーブルで能天気にゆらりゆらりと火の揺れるキャンドルを2人の男女挟んで向き合っていた。
「ねぇ、私達ってこの揺れるキャンドルみたいじゃない?」
「急にどうしたんですか?」
突如女がそんなことを言い出す。前に落ちてきた長い三つ編みを背中に投げながらそんな事を言った。驚いた男は目を見開いて彼女を見つめる。すると徐に、女が蝋燭の火を軽々と吹き消した。
「こんなふうに。吹き消したら簡単に吹き飛んでしまうような。そんな関係なんじゃないかと、偶に考えるの」
彼女の言葉を聞いた彼は、はたと考え込む。そして手を1つ叩くと、キャンドルに再び火が灯る。
そう、ここは魔法と共存する世界なのである。
「確かに、脆い関係かもしれませんね。でも。こうやってまた火を灯せばいいではないですか」
女は片眉をひそめ、彼を怪訝そうに再び見つめる。
「じゃあ。あなたがまた火を灯してくれるの?」
「はい、勿論。……でも、燃え尽きた場合はどうしましょう」
今度は女が問われる番だ。
「簡単よ。新しいキャンドルを作ればいいじゃない」
そう言った彼女は、すでに燃え尽き、下に溜まっている溶けた蝋に指を突っ込む。静止する男の声を気にもせず、溶けた蝋のついた指を優しく一振りすれば、蝋が意思を持ったように動き出し、元ある形に戻っていく。
「溶けた蝋さえ残っていれば、また火を灯せるでしょう」
男は心底むず痒そうにクビの後ろを掻く。
なんて自己犠牲をするんだと。
「まぁ、そもそも溶け切るなんてことはないでしょうね。人生って長いんだし……それに、燃え尽きる前に、貴方は新しいキャンドルに変えてくれるじゃないの」
-だから火は消えないのね-
「……あれ、元々なんの話してたんだっけ」
済ませた顔でそんな事を言う女に、男はブランケットを女の肩にかけながら、微笑んで返した。
「私達の固い縁のお話ですよ。もっとも、少しドギマギはしましたが」
さぁ、そろそろ寝ましょう。そういって蝋燭を持って女を寝室に送り届けたあと、諸々の片付けをする彼は、ふとキャンドルを見つめる。
「私は火をつける事しかできません。溶けたキャンドルを戻す事は、貴女にしかできない」
つまり、互いがいればあとはどうにでもなると言う事だ。彼女にあんな事を言われてどうしたものかと思ったが、丸く治ったようで。
「さ、片付けも済んだ事ですし。私も夢の世界に向かいましょうか」
11/20/2023, 4:38:36 AM