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「入道雲」

真っ青な空に吸い込まれそうになる。もう何時間こうしているだろうか。大きな窓に面してロッキングチェアを置いて、ひざに本をおいたまま読んだりまどろんだり、贅沢な時間を過ごしているわけだが、待ち人来たらずである。

諦めて立ち上がりキッチンに行く。二人分用意すべきだろうか。冷蔵庫からミネラルウォーターを出してグラスに注ぐ。乾いた喉を冷たい水が落ちる。残り一日となった夏休みの午後が静かに過ぎる。

白い雲がもくもくと伸びていく。電源を切っていたスマホを立ち上げた。この午後を一枚残しておこう。おや、メッセージが入っていた。そうか、連絡くれたんだね。気づかなくてごめん。

「16時には着くよ」

時計を見ると15:50だ。よし、ご飯を作ろう。庭に面した窓から外に出た。トマト、なす、とうもろこし、水菜、きゅうり、オクラを収穫し井戸の水で洗う。バシャバシャと音を立てる水が涼しさを呼ぶ。

車が入ってくる音がする。この音は彼の車だ。急いで玄関に回る。彼が運転席から降りるや抱きついた。だって、待ちくたびれたもの。

「待ってたよ」

「俺も」

彼の肩越しに入道雲が見える。

6/30/2024, 7:52:45 AM