夏の気配がする。
夏は好きだ。
暑いほどの日差しと、瑞々しい緑。
この世界にある、ありとあらゆるものがこの季節を祝福しているように思えてならない。
きっと、多くの人は夏は嫌いだろう。
暑いし、虫は多いし、何より暑い。
だけど、俺にとっては暑さもまた、生を感じる瞬間だから愛おしいものでさえある。
チリンと揺れる風鈴に、キーンとするようなアイス。
豪快な音を立てて燃える花に、五月蝿いほどの蝉時雨。
青空に映える白も、さざめく白波も。
全部が全部、生きているということだ。
今、俺は生きている。
涼しげな音を聞き、障子を隔てた先の世界に想いを馳せ、こんなにも暑さを感じている。
ここは、まだ夏ではない。
肌がひりつくような暑さも、泣きたくなるほどの地獄も、まだ味わっては居ない。
夏の気配がする。
そういうのが一番正しい。
冷たい麦茶が喉を冷やす。
蒸し蒸しと湿気染みた空気を深く吸い込む。
夏が好きだ。
死にたくなるほどの熱にさらされる夏が。
夏が好きだ。
生きていると、証明してくれるこの夏が。
6/29/2025, 12:13:05 AM