この距離感が好きだった。
君と軽口を叩き合って、笑って、お互い気を遣わずに、自然体でいられる。この関係、この距離感が好きだった。
――本当は、もう少しだけ近付きたかった。
ここから一歩踏み出すのは怖くて、少し距離を間違えれば逆に遠ざかってしまいそうな気がした。
だからこそ、近付き過ぎず、遠過ぎず、丁度良いこの距離感でいたんだ。この状況に甘えていた。あなたの隣にいるのは私だと信じて疑わなかった。
「結婚するんだ」
あなたがはにかんでそう告げた。
青天の霹靂。
相手は、呼ばれたパーティーで知り合った娘らしい。
私は、距離感を間違えていたのだろうか。近付かなくても遠くへ行ってしまった。いや、近付かなかったからこそ遠くへ行ってしまった。
――あぁ、なんて嬉しそうな顔でその娘の話をするんだろうか。
涙であなたの姿が滲んで、あなたとの境界線がわからない。この距離は近いのか遠いのか。でも、今更どうにもならない。きっともうこの距離が縮まることはない。届かないと理解しながらも、手を伸ばした。
『距離』
12/1/2023, 12:19:06 PM