「こんな夢を見た」から始まる小説

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こんな夢を見た。私は旅人で街々を巡り、自分の旅での見聞を広めている。今日も一日歩き回って暗くなってきたので、街を探すと幸いにも近くに街があったのでそこへ向かった。街の入口には門番が立っていて、鋭い目でこちらを見てきた。だが私の胸元を見ると、目を丸くした。
「失礼しました、旅人様でしたか。中へどうぞ」
急に態度が変わり、すぐに街へ入れてくれた。胸元には琥珀のような色の宝石がはめられたブローチしかない。ただのアクセサリーにしか見えないが、これだろうか。まあいい、中で食料の調達と今晩の宿を探そう。食料と水を買い出し、市場を後にしようとすると誰かが背後から話しかけてきた。振り向くと、おどおどとした女性がキレイな布に包まれた何かを差し出してきた。
「えっと、何か…」
「あ、あの、あなた旅人様ですよね?」
「え?どうして分かるんですか?」
「へ?そのブローチ、『通行証』ですよね。旅人様の証の石がついてますし」
彼女は怪訝そうに私を見た。このブローチ、通行証だったのか。通りで門番がすぐに中に入れてくれたわけだ。
「それで何か用ですか?」
「あ、あの旅人様、…何も聞かずにこれを受け取ってください!」
彼女はキレイな布に包まれた何かを私に押し付け、走り去っていった。呆然と彼女が走り去っていくのを眺めていたが、すぐに布に包まれた何かに興味が移った。それは私の両手を広げたくらいの大きさでずっしりと重かった。そこまで大きくないのにこんなに重いなんて何が入っているんだろう。ジッとキレイな布を観察する。他の街では見たことのない布だ。ベルベットのような触り心地の良い布に何やら細かい刺繍がしてある。刺繍は幾何学的な模様にも植物や花、もしくは鳥にも見える。素人目から見てもかなり高価なものだ。彼女が私にこれを預けた理由は分からないが、こんな良いものに包まれている物はさぞかし素晴らしいものに違いない。周囲を見回すが、私の行動に注目している者はいない。皆、今晩の夕食の買い出しやら何やらで忙しいのだ。誰も見ていないなら、少し開けて中を見ても良いだろう。私は中を見るために布をめくろうとした。
「遠くの街へ」
突然しわがれた声が聞こえて、思わず布ごと取り落としそうになった。気のせいかと思いもう一度布をめくろうとすると、
「遠くの街へ」
今度はしっかりと布の中から聞こえた。気のせいじゃない。中身を見るな、と牽制しているみたいだ。つまり、旅人として役目を果たせ、と。そういうことか。私は頷くと布をしっかりと巻き直し、今晩の宿を探し始めた。

2/28/2026, 1:44:56 PM