ワタナベ

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「困るんだよなあ」

上司からのこの言葉にストレスを感じないやつがいるだろうか。
男は頭を下げながら、「申し訳ございません」と先ほどと同じ言葉を述べた。

「はあぁ、困るんだよねえ」

上司はそんな謝罪なんて聞こえていないかのように、わざとらしく大きなため息をつく。

「大体さあ、もっとどうにかならないかなあ。君たちがこの時期に雨ばっか降らせるせいでさあ」

うるせえこのくそじじい。
そんなことを心のなかで思いながら、男は謝罪の言葉を繰り返す。
大体自分の娘のいざこざに仕事の関係者を巻き込むのはどういう了見なのか。
そもそもあんたが「1年に一回この時期なら会っていいよ」なんて言わなきゃこちとらこんな謝罪せずに済んだんだ。
というかアンタがそんなだから娘が恋愛に狂って仕事しなくなるんだろう。
男はかつて起こった地獄のような大騒動を思い出して遠い目をした。

「どうしても晴らせないの?」
「無理ですね」

まだ言うかこの上司。
そう思いながらにべもなく男は断りを入れる。
そう。無理なものは無理なのだ。
どの時期に雨を降らせるかはすでに会議で決まっている。
もちろん上司も会議には出席していたし、そのことについて了承もしたはずだ。耄碌して記憶がとんだとしか思えない。

「でもねえ、カササギ君の部署からの予算要求も年々増えてきていてねえ。働き方改革っていうの?特別手当を出すことにしたんだって。こっちも毎回毎回足場代わりを頼むのもねえ」

上司の言葉に男の胃が痛んだ。
どうやら足場になる奴らに足元を見られているらしい。
なんとかできるだろ?ね?なんて言いながら肩を叩いてくる上司には殺意を覚えざるを得ない。
今年も七夕を迎えた、天界の天候調整部で働く男は、誰にも知られずひっそりと血の涙を流すのであった。

7/7/2023, 10:31:02 AM