『突然の別れ』
気が付いたら、妻が小さくなってしまった。
写真の中で笑う彼女は、いつもの様に花咲く笑顔。なのに、今僕の腕の中で眠っている。
全身を包む線香の香りがやたら強く感じて不快だ。
何が起こったのか分からないとでもいう風に遺影の前に座り話しかけた。
「今日はどうしたの?凄く静かじゃん。ほら、早く我が家へ帰ろ?もうすぐでご飯の時間だよ。」
親戚達がそんな僕を驚いた様に見ている。
口々に「おかしくなった」やら「可哀想に」とか聞こえるけどなんの事か分からない。
だって、妻はここにいて笑っているだろ?
でも……手に持つ冷たいこの箱は、何だ?
まぁ、いい。
ほら、帰ろう?
僕達の家へ。
「ほら、起きて!仕事遅刻しちゃうよ!」
ピピピピピと聞こえて来た目覚ましの音と、妻の声。
うっすらと開けた視界に見える見慣れた天井。少し頭をずらしてベッドの脇を見るとプンプンと怒ってる妻が僕の布団を剥ぎ取った。
寒い。
「今日は大事な会議なんでしょ?」
「ん……かいぎ?」
「うわぁ、今日はいつもより寝ぼけが酷い!ほら、起きて!」
いつものやり取り
いつもの風景
いつも………………あれ?
「ねぇねぇ、ぼくのかわいいおくさん?きょうはなんがつなんにちだい?」
「えぇ?そんな事も分からないくらい寝ぼけてるの!?やばいよ????えっとね、私のかっこよくて少し抜けてるかわいい旦那様、今日は×月×日(月)ですよ!どお?会議の事思い出した?」
「…………うん、そうだった。「今日は」会議だった。」
ようやく状況が分かりノロノロと体を起こす。
妻は苦笑いしたあと「寝ちゃダメだよ!」と言い残して部屋を出ていく。ベッド脇に座り立ち上がりスーツに着替えようと姿見の鏡を見た瞬間思った。
「僕の顔、こんな感じだったっけ?」
最後に鏡を見た時僕は確か40代後半の見た目をしていた筈だ。なのに、何故……
「この顔は、20代の時の僕だ……」
突然の別れ、そして再会。
僕が君にしてあげられる事全てする。
だから、どうか……僕の側から離れないで。
何度も何度も繰り返す妻の死。
僕はこの輪から抜け出せない。
あれ、なんで妻の死因が分からないんだろう。
これは、救済か破滅か。
今の僕には分からない。
「ダメじゃない。もうこれ以上は貴方の心が壊れちゃうよ。そろそろ受け入れてね。…………これが本当の最期だよ?」
5/20/2024, 2:47:23 AM