[ごめんなさい、急用で行けません]
きつめに巻いた茶髪を揺らし 歩きつつ煙草を咥える。
初デートの待ち合わせ 早く家を出すぎてしまった。
困惑を解すべく路地裏で一服。ライターが冷たい。
喫煙後のブレスケアが 煙と重なりぼんやり頭に浮ぶ。
新調したブーツも 濃いめのメイクも 忍ばせた香水も
今となっては全てが恨めしい。
ああ、漠然と何かが憎い――ジュッ。
ふいに指先に熱が突き刺さる。
気付けば煙草が 持ち手のすぐそこまで
燃え尽きようとしていた。
ふと 寂れた居酒屋の薄汚れた看板が目に入る。
繁華街の街路樹に巻かれたイルミネーションの光は
ここまで届きやしない。
扉を開く。 ジャラジャラと鬱陶しい鈴の音。
気怠げな店主の「いらっしゃい」の声に被せた「生一つ」。
目元に滲んだマスカラを拭い 乱雑に髪を結う。
鼻をすするのは 底冷えする寒さのせいだ。
そんなイブの夜。
2023/12/24【イブの夜】
12/24/2023, 2:47:37 PM