noname

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星が綺麗な夜でした。
あなたはひとりで泣いていました。
こんなにも星は煌めいているのに、あなたは俯いて地面ばかりを見つめて震えていました。
どうにも見ていられなくて、私は声をかけました。
それでもどうしてあなたは黙って俯いたままです。
これでは駄目かと思い、私は励ましてみました。
それでもどうしてあなたは黙って俯いたままです。
発想を変えて、私はあなたを叱ってみました。
それでもどうしてあなたは黙って俯いたままです。
思い切って、私はあなたの手を引いてみます。
それでもどうしてあなたは黙って俯いたままです。
仕方が無いので、私は黙って隣に座りました。
暫くするとあなたはぽつりと零しました。

「私は孤独という病に罹ってしまいました。これではもう頑張れないのです。」

あなたはよりいっそう俯いて胎児のように丸まってしまいました。
星は絶えず輝いていました。私はあなたが可哀想に思えてきました。

「孤独ですか。いや、そう落ち込むことは無い。その病は治りますよ。」

私は努めて明るい調子で言いました。あなたは丸まったまま恨めしそうに応えました。

「なんの根拠がありましょう。あなたは医者ではないと言うのに。」

そうしてあなたは腕の隙間から私を睨みました。私は軽く咳払いをすると、今度は厳かに言いました。

「そもそも孤独というのは、誰しもが種を持つ病気であります。あなたは酷く苦しんでいらっしゃるか、それも理由がある。あなたは秘密が多すぎたのです。」

あなたは暫く黙ったままでしたが、やがて弱々しい声で呟きました。

「わたしは怖くて仕方がないのです。わたしではない誰かに、どうしてわたしを教えられましょう。」

「簡単なことです。天をご覧なさい。そうして言うのです。『星が綺麗ですね。』と。そこで相手がうんと言えば、あなたは秘密の感情をひとつ、共有したわけだ。」

あなたはようやく顔を上げて、空を見上げました。
あなたの瞳は星の光で輝いていました。
そこで、あなたのもとに誰かがやってきました。
どうやら、あなたを探していたようでした。
その人は酷く安心した様子で、あなたの手を引いて帰ろうとしました。
あなたは立ち止まり、言いました。
「星が綺麗ですね。」
相手は一瞬呆気にとられたようでしたが、一拍遅れて空を見上げると微笑んで言いました。
「そうだね。」


『星空の下で』

4/5/2024, 4:40:32 PM