あんたは天才だった。
周りとは違う特別な感性を持っていた。
全てに才能があり、そこら辺のしょぼくれた中年よりも強い勇気を持っていて、誰よりも純粋な心の持ち主だった。誰よりも主人公だった。
だけど
「あんたはそれに溺れすぎた」
俺は言い放つ。ボサボサの白髪から覗くその丸い瞳孔を、しっかりと捉えながら。
「今じゃ人間の下の下にいる勘違い女だ」
窓の隙間から入り込む生暖かい風が、疎らに彼女の髪を揺らした。俺の言葉にあんたは口を引き攣らせる。反論こそはしなかったが、歪んだその愛想笑いが俺を酷く苛立たせた。
「はは…急に侮辱…?」
「その才能を磨けばいいものを、あんたは努力もしないでずっと自分の下を探し続けたんだ」
食いしばった歯の隙間から漏れでる俺の声に、何かを言いかけて小さく開閉を繰り返す彼女の口。昼下がりの柔らかい日差しが窓際のベッドを照らしている。数秒間の沈黙のあと。
「久しぶりに家に遊びに来たんだからそういうのはよそうよ、お茶飲む?」
あんたから出た言葉がそれだった。引き攣った口角を上げ続ける彼女は、立ち上がってそそくさとキッチンへ足を運ぶ。その後ろ姿を目で追いながら、尖った口を開いた。
「ぐちゃぐちゃになるまでやり続けろよ、人に見せんなよ、人に見せるためだけに動くなよ」
声が徐々に掠れていく。コップを握る彼女の指先が、僅かに震えているのが分かった。
「あんたの力はそっちの方が合ってるんだよ、あんたは凄いんだから、今から磨いてみろよ、何もしてないのに自分を過信するなよ」
あんたは何も言わずに、麦茶が入ったそのグラスをテーブルに置く。俺は決してあんたから目を離さなかった。再び腰を下ろす彼女。逸らされ続けるその目を、俺は真っ直ぐと見つめ続けた。そのとき、初めて目が合う。
「……暑苦しいね。それ、迷惑かも」
そう微笑むあんたから出た柔らかい言葉。俺は口を半端に開いて言葉を詰まらせた。
3/12/2026, 2:58:48 PM