森羅秋

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目が覚めるまでに


 隕石が落ちて世界が変わった
 謎のモンスターが人類を襲う
 人類が滅びゆくさまを、ただ手をこまねいているわけにはいかない
 神に選ばれた人間よ。勇者よ
 仲間を選び旅立て
 力を合わせて敵を倒すのだ

 BGMが流れたので少年は動けるようになった。
 城下町のギルド【ラボ】に向かう。入口から中に入ると広い食堂がある。屈強な戦士、可憐な魔法使い、誠実そうな僧侶などが大勢食事をしていた。
 カウンターにいる受付嬢に話しかける。
『仲間を紹介してください』
 受付嬢は、かしこまりました。と答えると、ボンっと分厚い本を取り出した。今は無き電話帳よりも幅が分厚い。
 受付嬢は重厚な本を手渡す。
 促されるまま、少年は1ページ目を開いた。個人プロフィールが載っている。並びは、日本語と英語と中国語とアラビア語とスペイン語の順に氏名で纏められて、その人物の職業、戦闘能力特性、覚えられる呪文などが書かれている。
『こちらから1000人、仲間をお選びください』
 せんにんっ!? と少年は慌てた。いや多すぎない? 無理でしょ? と口パクすると、受付嬢は時計の針を示す。
『あと10分でお決めください』
 無理無理無理無理。と少年はパラパラページを捲り、勢いだけで片っ端から登録する。
 なんとか時間内に選び終わると、少年の周囲に1000人の冒険者が集まっていた。圧巻である。少年の顔が引きつった。

『敵の形状はスライムです。頑張ってください』
「おーい。起きろー」

 受付嬢の声と天からの声がかぶった。
 少年は空を見上げる。

「おおーい。ここで寝るなー。起きろー」

 ふわりと浮遊感をもつと、ぱっと画面が変わった。
 真っ暗だ。
 ゆさゆさと体を揺すられている。顔をあげると、椅子に座って顔伏せて寝ていたと気づいた。しかも社員食堂の一角で、うどんを食べ終わって寝落ちしたようだ。
 二十代の女性はそう理解した。崩れたお団子にすっぴんに近いほど落ちきった化粧、ヨレヨレの襟シャツにアイロンをかけていないスラックス。唯一白衣だけは糊付けされてしゃんとしていた。
「変な夢みた」
 女性は起こしてくれた親友に声をかける。彼女もまた疲労困憊である。シャワーを浴びてきて身なりは整っているが、目の下のクマがくっきりと浮かび上がっていた。
「いやぁ。お疲れ。徹夜三昧だったからねぇ。事故ったらヤバいし仮眠室にいけば?」
 女性は首を左右に降った。
「駄目。やっと敵の正体判明したんだから。おちおち寝てられないよ」
 親友は女性の隣にある椅子を引き出し座る。
「解析では宇宙からきたモノって出た。脳に寄生する粘液は数年前にあった隕石落下で地球にきた説が濃厚みたい。海に落ちたさいに拡散されて、水蒸気で雲に紛れて雨と一緒に地上に降りてきた」
「海、雨、川などの水から人の体内に入ると脳に寄生。脳神経と細胞を食い荒らしてしまい、余命は1年」
 でも。と女性は立ち上がる。
「成分分析で色々分かるから、私達が生存できる可能性がある! まだ間に合う!」
 親友は微笑した。
「わかったわかった。まずは食器を返しておいで」
「そうだね。いってきます」
 女性お盆をもって食器回収口へ向かった。
 親友は立ち上がり天井を見上げた。天井の壁の四隅端に粘液が染み出していることを確認して呟く。

「レム及びノンレム睡眠時を利用した人格形成は順調に侵攻中。同化完了までの予想時間はあと―――――」
 





 

8/3/2023, 3:26:17 PM