谷折ジュゴン

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創作「正直」

誤魔化すのはもう止めようと何度も思った。だけど、正直に話すのは怖い。文章に味を感じるなんて言ったら、また「中二病」とか「うざい」とか言われて……。だけどもう誤魔化し続けるのもつらい。それに説明を避けたら今度は疑問を持たれてしまう。もう、わたしはどうしたら良いのだろう。

「なーに思い詰めた顔してんの」

友人の声にわたしは我に帰る。そして、わたしが今いるのは友人の家であったと思い出す。ここで彼女と共に課題をしていたところだった。

「何か疲れちゃって」

苦笑しつつわたしが答えると友人はふっと表情を緩めてチョコレートのお菓子をつまむ。

「難しいもんねぇ、課題」

「うん 、そうだね」

「ん! もしかして今日のこともでしょ」

急に間合いを詰められ、背中に冷たいものが走る。やはり、友人の目は誤魔化せないようだ。今日、わたしは学校でうっかりとある文章を「おいしい」と少し大きい声で言ってしまったのだ。それをデリカシーのない同級生に聞かれ、過去の傷を抉られることを言われたのだった。

「まぁ、ああいう奴がいるから、ちょっとしたことも秘密にする必要が出てくるんだよね」

「うん、でも今回は本人には悪気がないみたいだったから、過去を忘れられないわたしが悪いの」

わたしの言葉に友人は目を吊り上げ大きくため息をつき、手に持っていた煎餅でわたしをさす。

「きみは優しい。こんなに優しいきみの心に今も癒えない傷を負わせた奴が、あたしは許せない」

そう言って乱暴に煎餅を噛み割った。不機嫌な顔でばりぼりと煎餅を噛み砕く友人の横顔を眺める。彼女のようなさっぱりした性格がわたしにもあったなら。友人に会う度に思う。正直、友人が羨ましい。

(終)

6/2/2024, 12:46:44 PM