その稲荷様には、深い深い木の間を、崩れかかった石段を果てしなく上って、息も絶え絶えに上がりきったところでようやく会える。
二匹の稲荷様は、青い雲が描かれた台座の上に対称に鎮座し、左の稲荷様は巻物を咥え、右の稲荷様は玉を咥えている。真っ白で滑らかな身体に、尻尾をすっと立てて、あの細い目で、まっすぐにこちらを見る。
行く手を阻むように大木がそびえ立ち、空はほとんど見えず、昼間でも日が暮れたように暗い。足元のシダ植物は濡れていて、土の匂いにむせるようだ。
足場の悪い中で一歩を踏みしめるたびに、なるほど自分の中の余計なものが剥がれ落ちていくような感覚になる。
登り詰めると、急に視界がひらけ、久しぶりに青空があった。稲荷様は相変わらず、台座にきちんと鎮座して、こちらを見る。
はあはあいいながら、稲荷様と対峙し、自分の心と対峙する。そして…
はて。自分はなんのためにここに来たのであったか。
稲荷様に何を言いたかったのか…。
いつもそうだ。稲荷様の前まで来ると、自分の中の黒い渦巻きが、なんなのかわからなくなるのだ。
風が吹き抜けて、息が落ち着いてきて、ふ、と笑う。
稲荷様は真顔でこちらを見ている。
…さて。あの足場の悪い中を、今度は下っていかなければ。
〈泣かないで〉…?
11/30/2022, 11:53:10 PM