霜月 朔(創作)

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さあ行こう



君はずっと苦しんでいた。
親の愛を知らず、
社会から弾き出され、
傷だらけの心と身体で、
独り、明けぬ闇の中で、
膝を抱えていた。

私は君に手を差し伸べた。
偏見という冷たい刃と、
無関心という冷たい棘が、
身を斬り付けるこの世の中で、
せめて私だけは、
君の味方でありたかった。

君は、私の手を取り、
絡み付く闇の中から、
這い上がろうとした。
私は君に寄り添い続けた。

月が綺麗な夜だった。
君は小さく微笑んだ。
その微笑みは、
酷く虚ろだった。

君は私の手を握り、言った。
…全てを終わりにしたい、と。
私は、初めて知った。
私の手の温もりが、
君を苦しめていたのだと。

私は頷いた。
…君を一人にはしないよ、と。
私の言葉に、
君は嬉しそうに微笑んだ。
その微笑みは、
とても透明だった。

…さあ行こう。

そして、君と二人、
夜の海辺へと歩き出す。
波の下には、
美しい都があるという。

…さあ行こう。

君が心から笑えるように。
永遠に、君を護るから。


6/7/2025, 8:51:18 AM