花鈴

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3ヶ月前の会議で新しいイベントの担当を私に任せると上司が言った。
「絶対に失敗できないイベントだからな」と背中を叩かれた。
上司は、期待しているという意味も含めた激励の言葉だったのだろうが、
私はその瞬間、逃げ出したい衝動に駈られた。

確かに成功すれば自分にとっても自信となるし、それは周りから評価されるかもしれない。けれども、そもそも私は保守的で地道に目立たず生きてきたタイプで、荷が重すぎた。

とは言え、仕事なので何としてでも成功出来るよう進めて行かなければならず、寝ても覚めても仕事の事ばかり考え、焦りと不安で押し潰されそうだった。周りは言葉では応援してくれたが、孤独だった。

2ヶ月後、大きなミスもなく、
イベントを無事に終える事が出来、
上司に飲みに誘われ、成功を祝い乾杯をした。「あなたに担当してもらって本当に良かった」との言葉をもらい
「いえいえ、皆さんのご協力のおかげです」と言ったものの、私の心は
上司からの誉め言葉を受け入れられなかった。

そんな言葉はいらない。
もし、何か失敗をしていたら
「あなたに任せるべきではなかった」とでも言ったのだろうか。
それとも「どう責任を取るつもり?」と、問われたのだろうか?

何となく上の空で早めに切り上げ
私は帰路に着いた。
大きな仕事を終えた達成感や安堵感とは違う重たい疲労感に襲われた。

確かに上司の言った様な叱咤激励が必要な事もあるのかもしれない。
ただ、どこかで
『上手くいかなくたっていい』と微笑んでくれていれば、もっとリラックスし、もっと良いイベントに出来たと思う。

改めて職場における言葉について考えた。
特に上の立場のものが下の者に何かを伝える時、相手との関係性、相手の性格などよく考えて発言しなければ、
思いとは別に言葉だけが一人歩きして望ましくない方向へ行きかねない。
私自身、自分より若い人や後から入社して来た人の方が多くなってきた今、
イベントの成功よりも、自分にとってこれからのコミニュケーションについて考える大きな起点となる出来事となった。



#上手くいかなくたっていい

8/9/2024, 10:53:08 AM