ㅤお風呂から出て、録画しておいたドラマのつづきを見ようとしたら、玄関チャイムが盛大に鳴らされる。
ㅤピンポンピンポンピンポーン。
「ノリ~?」
ㅤピンポンピンポンピンポン。
「お酒かってきたー!ㅤいっしょにのも~?」
「ちょ、近所迷惑だから!」
ㅤピンポンピンポンピン……ポン。
ㅤおい最後、溜めたのはなによ。
「いーから上がってきな」
ㅤ部屋の玄関に姿を現した茅乃は、既に酔っ払っているのかと疑ったほど変なテンションだったが、すぐに空元気だと知れた。駄目だったか、やっぱり。
ㅤエコバッグからビールやサワーを次々と並べる茅乃に、私は買い置きの季節限定ポテチを惜しげも無く捧げた。笑ってばかりだった茅乃は三十分もしないうちに大人しくなる。
「これでもさ、あいつの前では、我慢したんだよ?ㅤいつか思い出してもらう時に、泣き顔なんて悔しくて。明るく笑ってる私の方がいいなとか、思っ、てっ」
ㅤ語尾がみるみる震えて、途切れた。
ㅤ向かいに座っていた私は、キッチンから水を入れたグラスを手に戻ると、茅乃の隣に座る。項垂れてしまった小さな頭に手をやって、自分の肩にもたれさせた。思い出さないよ。あの男はあんたの事なんか、この先きっと思い出しもしない。
「よく頑張ったね」
ㅤ頭に浮かんだのと違う言葉を掛けてやると、茅乃はようやく「ふえええ」と声を上げて泣き崩れた。ぽたぽたと垂れた雫が、カーペットに仄暗い染みを残しては吸い込まれていった。
『涙』
3/29/2025, 3:08:16 PM