やけに広く静かに感じる家。
なぜか片側に寄ってるおれだけがいる写真。
ふとした時に耳の奥から聞こえる幻聴。
変な違和感がありまくるのに、その違和感の主がわからない。
親も先生も友達も何の違和感もないらしく、日々元気をなくしていくおれに『志望校へ行くために頑張っているのは知ってるけど、ちょっと根を詰めすぎ』『目のクマヤバいから少し休め』と見当違いな心配をしていた。
そしてあまつさえ親は学校に電話して今日は休みますと勝手に連絡を入れていた。
……家にいても気が滅入るだけなのに。
でも親に怒っても仕方がない。だからいっそのこと気分をリフレッシュさせるため昼食を外で食べ、後はぶらぶら散歩することにした。
気になっていた場所に行ってみたり公園でボーっとしてみたり……だけど気分はそこまで晴れなかった。
日も若干傾きかけてきた頃、とある喫茶店の前を通ると一人でスイーツを爆食いしている女子高生がガラス越しに見えた。
この制服は志望校のやつじゃ……? と思っているとその女子高生と目が合った。
その瞬間、彼女は勢いよく立ち上がり目を見開いてガラスに張り付かんばかりにおれをじぃーっと見て、少し不安げな表情で言った。
「……竜くん?」
声は聞こえないのにも関わらず、絶対おれの名前を言ったと確信めいたものがあった。
だからおれは弾かれたように喫茶店に駆け込んで、彼女に声をかける。
「紫音……さん」
この巡り逢いはおれにとって間違いなく分岐点となった。
この奇跡のような巡り逢いがなければきっと完全に忘れていただろう。
……あの人のことを。
4/24/2025, 1:42:45 PM