三日月

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ずっとこのまま


「ずっとこのまま一緒だよ!」

 そう言っていた癖に|由伸《よしのぶ》は死んだ。

 あれは、|由香《ゆか》が由伸と結婚してから二年目の夏のこと、由香のお腹には赤ちゃんがいて、由伸は産まれてくる日をいつか何時かと楽しみにしていた。

 そんな中、生活環境は一変し、マスクでの生活を余儀なくされ、そして由伸は会社からワクチン接種をするよう言い渡されてそれに従い接種したというのに。

 安心安全と言われていたものの、詳しい説明が成されていないので不安はあったけれど、由伸に接種しないと働けないんだと言われ由香には接種を止めることは出来なかった。

「ずっとこのまま一緒だよ!  行ってくるね。由香も気をつけて行って来るんだよ」
「うん」
 
  そう言って由伸が笑顔で家を出て接種会場に向かったのを見送ると、由香は検診のために病院に向かい、この日はそのまま病院近くにある実家に泊まることになっていたので実家に向かうことに……。

 由伸とは常にメールで連絡を取り合っているので、接種が終わるとその報告が来るし、由香も病院が終われば報告し、実家に着けばその報告をする。

 でも、寝る直前はどうしても由伸の声が聞きたくて、由香は我慢出来ずに電話をした。

「えへへ、寂しくなっちゃった!  由伸元気?」
「当たり前だろ、ワクチン接種したんだから益々元気」
「そ、そっか……なら良かったよぉ……」
「明日迎え行くからな」
「うん·····ありがとう」
「じゃ、おやすみ、ずっと一緒だよ」
「うん、由伸おやすみ」


 でもこれが最後の会話となった……。

 次の日メールをしたのに一向に既読にならない。

 心配で、寂しくて電話しても由伸は出なかった。

 そして実家に迎えに来る時間が過ぎても由伸は顔を出さないのである。

 どうしたものかと不安が過っていると、父が車で送るからと言うので、母にも一緒に着いてきて貰い一緒に家に送って貰うことにした。

 玄関にはきちんと鍵がかかっていて、中を開けると由伸の靴がそのまま置いてある·····。

(外出してない!?)

「由伸ただいまー」

 返事は無い。

 よく分からず全ての部屋を確認した後、最後に寝室行くとそこには由伸の寝ている姿があった。

「な、なんだ由伸まだ寝てるんじゃん! おはよう」

 後ろを振り向いたままの由伸に声を掛けたけど返事が無いので身体を揺することに……。

(……つ、冷たい!?)

「ちょっと、由伸……?」

(えっ……う、嘘でしょ)

「やーだー起きて、起きてよー」

 泣きながら譲っていると、両親も由香の泣き声を聞きつけて寝室に入ってきた。

「由香、け、警察……警察に電話しろ」

 父さんに言われて直ぐさま電話する。

 それから色々状況確認等が成され、そして死亡が確認されることに……。

 荒らされた形跡は一切なく、死亡は心不全……。

 その後、医師は口が裂けても死因がワクチン接種によるものだとは言えないのだろうか、由香には原因となるものがこれ以外で何も思い付か無かった。

 でも、だからと言って医師から証拠はと聞かれても、証拠なんてないから何も言えない。

 おかしな世の中だ……納得いかないまま由香はひと月後に赤ちゃんを出産する、泣いてる暇なんてなかったのだ。

 こうして生まれたのが、元気な2300gの女の子、由伸との愛の結晶であもある大事な子供である。

 ワクチン接種の反対をしていれば違う未来があったのかも知れない……。

 そう思うと悔やまれる。

 それなのに、あの時、由伸が仕事を辞めさせられてしまうと、これから子供が生まれるのに生活出来なくなると言う理由から強くいえなかった。

 由香は子供が生まれてからもずっとそのことを後悔し、自分を責めながら、母子家庭になりながらも必死で生きている。

 いつも思い出す由伸の言葉。

……由伸、ずっとこのまま一緒だよ……だから今日も天国から見守っていてね。

 今日も仏壇に手を合わせてから由香と娘の一日が始まる……。


☆この物語はフィクションです☆


――三日月――

 

 






 

 


1/13/2023, 4:44:39 AM