秋埜

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 蕩けるように滑らかな膚だった。淡く紅を溶かした背中に今を盛りと花の咲き誇り、花びらがはらはらと散り落ちた。掌に受け止めるとちりと冷たく、手の熱で儚く溶けてしまった。わずかばかり残ったしずくを戯れ舐めてみれば、芳香が鼻に抜ける。
「雪桜、と呼ぶのだそうです」
花に似て品の良い声だった。顔は知らない。室に招き入れられてこの方、こちらに背を向けたままだ。
「花が溶けてしまうので実を結ばず、種を成さず、挿し木しようにも伐られた枝は即座に枯れてしまう。おまけに宿主を選り好みするものだから、今はもうこの背に咲いているので最後なのだとか……ああ」
 吐息が熱を帯びれば膚はいっそう紅く染まり、花の白さを引き立てた。紅と白と、二色の花のようじゃないか。耳元に囁きかければ、喉を鳴らして笑う。
「いけませんよ、そんなに熱い息をかけては。花が全部溶けてしまう。……それとも、あなた、この忌々しい花を散らしてくれますか。憑かれて以来、寒くて寒くて、仕方がないのです」
 今までに九百九十九人と寝たのだと言う。
 皆、凍えて死んだと言う。
「あなたさまで千人目、この度こそは悲願の叶う気がいたします」
 成就するのは花だろう。千人目の肥やしを得て、ますます美しく咲くだろう。この身は既に凍え始めている。
 嘲笑うように花吹雪が舞った。

4/17/2023, 1:08:54 PM