「遠雷」
遠くの空が、チカチカと明滅している。
遅れてなのか、先んじてなのか、コロコロと鳴る遠雷。
まだ、雲間にちらちらと青白い光が点滅しているだけ。
『さぁ、そろそろ参ろうか。いざ、いざ。』
ヘソを隠して待っていろよ、と言わんばかりに音が近づいてくる。
空が翳って、急に宵闇の暗がりの様な雰囲気が漂ってくる。
音もなく近付いてくるのは、雷鳴。
空が光ったら、数を数えよう。
(稲光は見えるだろうか。)
ガラス窓越しに見上げた空は、灰色と藍色を混ぜたようなマーブル模様。
今にも泣き出しそうな空を雷光が照らす。
パラパラと雨粒が落ちてきて、雷鳴が一際大きく所在を知らしめる。
(近づいて来た!)
洋服の上から、両の手でしっかりとヘソを押さえて、明滅する雷雲を見上げ続けた。
雷が大好きな近所のお兄さんは雷の時、玄関の軒下で空を見上げるんだと言っていた。
「雷ってキレイだよね~。ヘソなんか盗られないよぉ。気圧の谷で摩擦が起きるの、それが雷だよ。だから、怖くないってば。」
幼い私に、キレイなものを教えてくれた人。
8/23/2025, 11:13:45 AM