「〇二七八四。あなたはどこから来たのですか?」
「…」
手足が触手でできているが、その他は全て人間と同じ作りをしている異生物を私は研究している。
いきなり発見され、それからどんどん見つかっていき、異生物研究者がいる普通の世界となった。そんな中私も、異生物の研究専門の学校へ入り、今は、対面する授業中。
「…なぜ答えないのです。あなたは本当に地球にいたのですか?」
ぱりんっ
その瞬間、絶対に割れないとされていたガラスは異生物の職種により、一瞬にして粉々になる。
え?私もう死ぬの?入学してまだ1年も経ってないのに。
「人間、みーんなそんなことしか言えないの?聞いてすぐ答えるわけないじゃんか」
笑いながら私の目をジーッと見つめてくる異生物。私はそれに心を打たれる。私の母国では珍しいエメラルド色をした瞳を持っている。そんな異生物に。
「…じゃあ私の質問には答えなくていいよ。お友達になろう?私の名前は雪。華吹 雪。顔に見合わないよねー。良く言われるの。ねえ、異生物さんのお名前は?」
本当は怖い。その触手で殺されてしまうかもと思うけれど、試すだけ試した方がいいじゃん?
「お前みたいなやつ…初めて見たわ。俺の名前は海陽 陽菜。女みてえな名前だろ?でも、好きなんだよ」
「…素敵な名前だよ。私の名前なんかより素敵だよ」
「なんでだ?雪なんて、可愛いじゃないか。顔に見合わなくねえよ」
「…雪が降る日に生まれたからつけたんだって。まあそれだけならいいけど、面倒臭いくて適当に着けたんだよ?ほんと嫌になっちゃうなあ…」
頭をかきながら、割れた破片を見た。
すると、陽菜くんは私を触手で持ち上げた。
「え?! なに?!」
「そんな悲しい顔すんな!お前の名前は莉菜だ!俺と似てるだろ?莉菜!」
それはとても、純粋な笑顔だった。ほんと、子供みたい。
「…ありがとうね。私、莉菜かあ。かわいい。陽菜ありがとう」
「へへ!嬉しいか!」
これが、私たちの幸せな日々の始まり――
でも、そんなもの直ぐに終わっちゃうんだね。
「…陽菜。私もうダメみたい」
「…?どうしたんだよ、いつものお前じゃない。お前の顔じゃない。莉菜?」
私の片手には包丁。そして包丁には異生物に毒の薬が塗られている。
「陽菜。一緒に死のう?ねえ、死のうよ」
私、可笑しくなってる?
「おい、なんだ。どうしたんだよ。話せ!俺たち友達だろ?」
「ッ、だって!陽菜を殺せって言われたの!やだよ、ひなを失いたくない!ねえ、死のう!一緒に死のう!!」
心中。
まるで恋愛小説。そう、儚く、ドロドロとした恋愛小説。
「…まあ、俺さ。秘密事してたんだよな。俺、元々地球人じゃねえんだよ」
「…当たり前じゃん。だって人じゃないもの」
「ハハッ。莉菜はこんな時も笑わせにきてんのかよ。違ぇよ。地球外生命体だ」
…なんだか嫌な予感。
「俺、地球人の偵察に来たイクツアルポーク人なんだ。人間なんて殺そうと思えば殺せた。でも殺さなかった。なあ、分かるだろ?」
「……私が…、いるから?」
少しその言葉に恥ずかしさを感じ、躊躇いながらも言う。
「はっ!そうだよ、あってる。嘘言って、俺らには地球人に叶わないって言ったんだ。仲間にな。まあ…其れがもうそろバレそうでよ。地球、終わるよ」
ずっと笑顔だったのに、いきなり真面目そうな顔をして、そして最後。また笑う。
「…なら、尚更、死のうよ。私、陽菜に会えてよかったもん」
「次は同じ宇宙に生まれよう」
ギュゥゥゥ
強い力に腕は麻痺。毒の着いた包丁なんて床に落ちた。
地球があり、星があり、その星は宇宙の中にあり、宇宙はひとつではなく、何個もある。なら、宇宙はなんの中にあるのだろうか。
でも、そんなのどうでもいい。私たちは、いくつもある宇宙を超え、出会い。友達になった。
…あれ、死ぬ前に好きなこと伝えてないじゃん。
そして、私は彼の触手に巻かれ、窒息死。
6/7/2024, 11:29:58 AM