僕が───その犯人だ。
刹那───。
彼の言葉に空気が凍る。
騎士が眉を顰め、霊媒師が動きを止める。
村のパン屋は困惑と共に笑みを無くし、
私は思わず聞き返す。
「あなたが…犯人?」
あり得ない、と。そう呟いた。
満月のある日、一人の行方不明者が出た。
被害者は、この村でも特に大きな家に住んでいた人物。
近くには騎士が常駐し、それが急に姿を消したのであれば、それ相応の痕跡が残るはずだった。
しかし、謎は迷宮入りする───それは何故か?
被害者の事を誰も覚えていなかったのだ。
わかるのは、その屋敷を中心に村がある事くらい。
記憶の欠落という不可解さを全員が抱える中で、
なぜ。彼は自分を犯人だとわかるのか。
あり得ない…か───。
そうだね、確かにそうだ。
僕に彼を狙う理由はない───。
静かに、それでいて、力のこもった言葉と共に彼が呟く。
その手には、一つの本があった。
人狼物語。
人狼潜む村から、旅人が人を喰らう人狼を見つけ出し、平和を与える物語。
それはまさに今の状況そのもので、しかしそれなら、旅人である彼が人狼である筈は無かった。
ねぇ、僕を占ってくれないかな───占い師ちゃん。
「う、うん。」
そうして、彼の言葉に頷こうとした時。
「やめておきなさい」
無言を貫いていた霊媒師が口を開いた。
確信を持った言葉。
首を振る彼女は、確かに何か知っているようで…
大丈夫。それでここは平和になる───。
しかし、私は、旅人の言葉を信じる事しか出来なかった。
目を閉じる。水晶を覗く。世界が歪む。
そうして、彼の魂を見つめた瞬間───。
星が弾けるように、光が舞って。
目の前から、誰かが消えた。
「えっ?」
涙が流れる。
心を打つ刹那の喪失感。
きっとそれは、誰かへの想いの残響だった。
4/28/2026, 10:54:20 PM