かたいなか

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コンビニやファミレス等々で、妙な確率で見ず知らずの相手とガッツリ目が合うと、
それこそ何気ないふりして、流れるように視線を外したがる物書きです。
今回のお題が「何気ないふり」とのことなので、
それっぽいおはなしをひとつ、ご紹介します。

最近最近のおはなしです。
3月も終わり、春めいて、シトラス系の香りも上品な山椒の若葉が、少しずつ、茂り始めます。

山椒の若葉はウナギの蒲焼きにはもちろん、
パスタに使えば風味よく、焼き魚と一緒に出せば爽やかな、味変素材になるのです。
そして山椒の若葉とミントの若葉をどっさり使って、ハーブティーをこさえれば、
心も気分も、さっぱり、リフレッシュなのです。

そんな山椒の若葉をちょこちょこ、ぷちぷち、
都内某所の某稲荷神社敷地内に住まう稲荷狐のお母さんとおばあちゃんが、
別世界から来た世界線管理局の局員1人と一緒に少しずつ、まんべんなく、
しかし、たくさんの樹からどっさり収穫して、
水で、ササッと洗ったのでした。

豊穣は稲荷の神様の、とてもお気に召すところ。
お母さん狐とおばあちゃん狐は、どっさり収穫した早春の美味を、
山椒味噌にしたり、ハーブティーにしたり、てんぷらにしたりするために、
それぞれ分けて、丁寧に丁寧に仕込むのでした。

というのも
稲荷狐の一家だけでは食べきれいないので
神社の宿坊利用者のための料理の
有料オプションとして提供するのです
(稲荷神社の御利益のひとつは商売繁盛)

「奉仕、感謝します」
管理局の局員が、収穫の最初からから仕込みの最後まで手伝ってくれたので、
稲荷狐のお母さんは、お礼を言って、収穫した山椒の若葉を局員に、報酬として渡しました。
「木の芽をとって洗って分けて、お疲れでしょう。
木の芽茶が入りましたので、どうぞ1服、休んでいってください」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
局員はビジネスネームをツバメといいまして、
「こっち」の世界のコーヒーはちょこちょこほぼほぼ毎日キメておるコーヒージャンキーですが、
ハーブティー、特に山椒の若葉を使ったフレッシュな季節系ハーブティーは、初体験。

「ああ」
湯気と一緒に香りを吸い込むと、
ツバメの嗅覚を、脳を、心を、和風シトラスたる山椒の、爽やかさが抜けてゆきます。
「美味い」
1杯をゆっくり堪能して、2杯目のおかわりを頂いて、ツバメは春を楽しみました。

ところで今回のお題は「何気ないふり」でして
(お題回収開始)

翌日、ツバメは山椒と、ミント等々をブレンドした、お母さん狐特製のハーブティーを持って、
世界線管理局経理部のエンジニア、スフィンクスのコタツへ向かいました。
スフィンクスはシトラス系がとっても大好き!
ツバメは機械いじりの得意なスフィンクスに自分のバイクのアレコレを世話になっておりますので、
お礼を込めて、渡そうと思ったのでした。

「スフィンクス査問官」
経理部の窓際の、スフィンクスのコタツに向かいますと、スフィンクスは既に香りを察知!
ドチャクソに、間違いなく、歓喜の気配です。
だけど何気ないふりをするのです(お題)
「今、すこし時間はありますか?」

「おう、なんだ、バイクのメンテか?」
ミカン大好きスフィンクスの、視線はガッツリ間違いなく、ツバメが持参したハーブティーのリーフを詰めた小瓶に釘付けです。
だけど何気ないふりをするのです(お略)
「それともそろそろ、バイクのタイヤ交換か?」

ツバメもスフィンクスの興味津々には、間違いなく、気付いています。
だけど何気ないふりをするのです(略)
きっと、スフィンクスのプライドなのです。

「山椒の若葉を使った、ハーブティーが手に入りました。あなたには世話になっているので」
世話になっているので、その礼として、渡しに来ただけです。
ツバメはそう続けて、コタツの上にコトン、小瓶を置きますと、
彼自身の仕事がありますので、そのまま自分の部署へ、帰ってゆきました。

「ふーん。サンショー。サンショー?」
スフィンクスは山椒を知りませんが、
それがミカンの親戚であることは、香りから理解しておりました。
「おう。良い香りじゃねぇの」
ツバメが見えなくなったあたりで、スフィンクスはご機嫌に、瓶を開けて和風シトラスを、存分に堪能しましたとさ。

3/31/2026, 7:16:51 AM