燈火

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【私の日記帳】


「知られたくない秘密は言葉にしてはいけない」
口に人差し指を当て、彼は勝ち誇ったように笑う。
手には〈日々。〉と題された大学ノートがある。
いや、「飲み物取りに行った隙に家探しすな」

ノートを取りあげ、埃をはらうように表紙を叩く。
無論、毎日書いているので埃など被っていない。
「ちょっとー、その態度は失礼じゃないですかー」
「失礼なのは君の行動ね」好奇心旺盛な思春期男子か。

頬を膨らませて抗議する、自称・良い子の二十三歳児。
「まさか読んでないよね」疑いの目を向けた。
あまり時間は無かったと思うが、念のため確認する。
「読んでないですよ、全然」わざとらしい棒読み。

つい先ほどの彼の発言を思い出す。
『知られたくない秘密』ってなんのことだろう。
読まれて困るようなことを書いた覚えはない。
それっぽいことを言っただけか、と勝手に納得する。

今日の目的だった勉強会を終えて、彼は帰っていった。
勉強会と言いつつ、ほとんど話していた気がするが。
一人になれば、いつも通り。夕飯を食べてお風呂に入る。
寝る前にノートを開き、書きたいことを綴っていった。

最後のページが埋まり、なんだか達成感を覚える。
日々の些細な出来事を書き留めるようになって約一年。
ノートの冊数もそれなりに増えてきた。
どんなこと書いたっけな、と軽い気持ちで読み返す。

このノートは、ちょうど今日、彼が手にしていた物だ。
最初から読み進めると、馴染まない文字を見つけた。
〈一緒に過ごすと楽しい〉に矢印を向けて〈俺も〉って。
やっぱり読んでるし、独り言に返事をするな。

8/27/2023, 9:28:29 AM