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むかし、寒空の下で夜空に輝く星が異様に明るくそれを眺める私は思わず、
温かいなぁ。
と口走ったことがある。
街灯がさびしい田舎のあぜ道を母と2人、寒さを噛み潰しながら家まで歩いた時のことだ。
それを聞いた母は、ハァ。と溜め息とも笑いと取れぬ素っ頓狂な音をだすと、
お前は不思議なことを言うねぇ。でも、あの星がある宇宙っちゅうんは…
と、宇宙の気温が、およそ想像がつかない、マイナスうん百℃もするくらい寒いだの。そんな宇宙なのだから、そこにある星の中には氷だらけの星もあるだの。夢のない話しをペラペラと白い息まじりに話してきた。
この母親は子ども相手になんて事を言うのだろう。と子どもながらにガッカリしたのを覚えている。
あれから40年以上たった。
今、母は鉄の扉の向こうで温められ白い煙とともに天に昇っている。
それを見上げる私の横で息子が、ふと、
おばぁちゃんは、これからお星さまになるんだよね。宇宙に行けるなんていいなぁ。
と、どこぞの大人に吹き込まれたウソっぱちを鵜呑みにしていた。
私は、それが聞こえると。一瞬、鼻で笑って。
まぁ、でも宇宙っちゅうんは…。
と、宇宙の気温や氷ばかりの星のことを話してやった。子どもに言う事ではないのだが、昔、母と歩いた、あのあぜ道のことを不意に思い出してしまった事と、なんだか、それが、母への弔いの様な気がして、あの時の母の真似をしてしまった。
それを聞いて息子は、
涼しそう。
と、一言。
鉄扉越しの炎の音さえ聞きたくないくらい暑い。夏真っ盛りの8月のことである。

12/2/2025, 1:10:32 AM