事あるごとにクソしか言わなくなった母親でも、美しい物語を残してくれた。私の寝癖を雀の巣といって、幼い頃はよく髪の手入れをしてくれた。
細毛かつ柔らかな髪質は、触れると猫の毛のようにふんわりとして気持ちいいが、油断すると絡まってゴワゴワとした黒い塊が現れる。これが私の髪の毛に潜む雀の巣だ。
実際に雀の巣を見たことはないが、何となく分かる気がする。小さな雀が卵を産むには、ちょうどいい柔らかさと大きさなのだろう。まあ今では、どんなに雀の巣をつくろうが、自分で手入れせねば、「お前は相手から好かれないと一生付き合えない」と母親に呪いを吐かれてしまう。ラプンツェルよろしく髪を長く伸ばしたって、人間嫌いの私の元に迎えに来てくれる人間は、そもそもいない。
いっそのこと、断髪して出家してしまおうか。切った髪は、本当に雀の巣にしてやろう。きっと私を好いてくれる雀たちが、ちゅんちゅんと集まってくれるだろうよ。そうして、雀の子そこのけそこのけお馬が通ると聞かせてやるのさ。
物心ついた時から覚えた俳句だ。おそらく、私の髪にある雀の巣で育まれた雀が、その句の中にいると信じたのかもしれない。
本当に私の髪で雀の巣を作ったら、どんな物語が新たに産まれるのか。髪は唯一腐らない肉というが、永遠に美しい記憶ともいえそうだ。
(250610 美しい)
6/10/2025, 12:25:53 PM