鴫沢(しぎさわ)

Open App

 私はスーパーでレジ打ちのアルバイトをしている。駅に近い大型スーパーなので、客が多い。当然、厄介な客も多く紛れ込んでいる。
 今日もその一人に出会った。
 その客は七十歳ほどの女で、カゴを台に置くときに、ひどく乱暴に置いたので、どうもマトモな客でないなと思った。ところで接客のマニュアルでは、ポイントカードを提示しない客に対し、——ポイントカードお持ちですか? と訊くことになっている。その客はポイントカードを提示しなかったので、最後に訊かなければならないが、気乗りしない。アルバイト三年の実地経験として、その手の客とは極力コミュニケーションを取らない方が良いということを知っている。またその手の客はポイントカードという小市民的なものを持っていないことの方が多い。
 私はポイントカードの有無を訊かずに終わらせようと思ったが、仮にポイントカードを持っていて、会計の終わった後に、ポイントカードを提示された場合の困難を考えた。この手の客は、会計が円滑に進まないのをとにかく嫌う。会計が終わったあとに、ポイントを後付けする作業は最低でも三分かかる。三分間を、全く怒りなしに過ごせるとは到底思えない。
 結局訊くことにした。
 訊いてみたら、——持ってないわ! と怒鳴られた。予想通りである。私は、——すみませんとだけ言った。何とかことなきを得た。
 こういう客は老人に多い気がする。上のようなものを狂気と言えるかわからないが、仮にそう言うなら、この客は狂気を老年になってから発芽させたのか、生まれたときから抱懐していたのか、どちらだろう? 後者の場合、狂気を抱懐したまま、どのように長年社会生活を営んできたのだろう? 気になるところである。

3/14/2024, 3:09:41 PM