『鏡の中の自分』
──カタカタカタ
『チー牛がwww顔真っ赤にしてマジレスwww乙www』
そう最後に書き込みパソコンの画面から目を離す。
今日も十分に楽しめたし、この辺で良いだろう。
尿意をもよおしたのでトイレへと向かう。
俺の趣味はネットで誰かを煽る事だ。
適当に相手の気を逆撫でる事を書き込めば、必死になって食い付いてくる雑魚は一定数いる。
誰かを苛立たせている臨場感。
誰かの感情を自分が握っている優越感。
誰かが大切にしている矜恃を踏みにじる高揚感。
……あぁ、なんて楽しいんだろう!
ネットの中の"俺"はリアルの俺とは違う。
誰かの上に立つ事が出来るのだ!
──ジャーー
用を足し終え洗面所で手を洗う途中、視線を感じて前を見る。
……手を洗う自分の姿が見える。
当たり前だ、そこには鏡があるのだから。
──キュッ
蛇口を捻り部屋に戻ろうとした所で、どうにも違和感を感じ足が止まる。
少しの間を空けて……気付く。
手を洗う途中、俺は手元を見ていた筈だ。
それなのに鏡の方から視線を感じるのはおかしいだろう。
そう思って鏡を見れば、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら此方を見ている"俺"がいた。
"俺"が言う。
『リアルのお前はこんなにも醜いのになwww』
「……うるさい」
『ネットでイキる事しか出来ないチー牛www』
「……うるさいっ!」
『外見も中身も醜い弱者wwwそれがリアルのお前だろう?wwwwww』
「……っ黙れぇっつ!!」
──バリィンッッ
気が付くと"俺"は何処にも居ない。
残された鏡には……鮮血に染められ粉々になった、誰かの顔だけが写っていた。
11/3/2022, 1:53:27 PM