天国と地獄
「白の門と黒の門、どちらを通るか?」
門番は、それだけを口にする。
門番は、その先に何が待っているのかを知らない。
ただ仕事として淡々と訪れた者に選ばせる。
皆一様に白の門を選んで通っていく。
それが何を意味しているのか、わかっているのか。
だから
「黒の門に行きます」
そんな言葉を聞いて、少しだけ動揺したものだ。
「私は罪を犯しました。きっと、そちらの門は私を受け入れてはくれないでしょう」
決意の眼差し。
何故?
だが、自分はたかが門番。
そんなことを聞いていい存在ではないのだ。
「ならば、行くがよい」
軋む音を立てて、黒い門が開く。
その者はまっすぐと、しっかりとした足取りで門をくぐる。
「幸運があらんことを…」
聞こえないように、そっと呟く。
聞こえてしまったのか、一瞬だけ足が止まった。
だが、その者は振り返ることなく、門の向こうへと消えていった。
果たして、その先に待つものは本当に地獄なのか。
答えはきっと、門の先に行った者にしかわからない。
5/27/2023, 10:38:44 AM