優しさとは何か

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七夕

織姫様と彦星様は1年に1度しか会えない。
普通の人なら、二人のことをとても哀れに思うだろう。
好き同士なのに年1しか会えないなんて拷問ではないか、と。
しかし私はそうは思わない。
2人は十二分に幸せだと思う。
なぜなら2人は両想いで、お互いがお互いを好いていることを知っているから。
好きな人がいても、その人に恋人がいて、自分には振り向く素振りも見せてもらえないことのほうが哀れである。


「あーーー、親友が欲しいよお。」
なんでも吐き出せて、馬鹿なことを言い合えて、真剣に相談もできる友達がほしい。
そんな一心で始めた、SNSのアプリ。
つぶやきを見て、「あ、この人と気が合いそう」と思ったらフォローしてみる。
最初は頑張って話しかけていたけれど、
頑張るのに疲れてしまったから、 
必然的に向こうから話しかけてくれた人とだけ仲良くしていた。
人を選んでフォローしたとはいえ、
何も考えず気を使わずにポンポンと話すのは難しい。
出会ってまもないから当たり前のことなのか?
どんな話もできるような仲になるには、
リアルでは半年はかかるが、
やはりネットでも長時間かかるものなのだろうか。
私は今すぐにでも親友がほしいのに。。。
なかなか親友ができず、苦しい思いを抱えていた。


そんな中、1人例外がいた。
ある日の夕方、一件のメッセージが届いた。
「このアプリの使い方よくわかってないけど、
仲良くしよう」
どうやら異性の大学生のようだ。
なんて返せばいいんだろう?
良い答えが思いつかない。
と、いうか、思ったことをすぐ言えるようにならないと、親友なんてできなくない?
だって本音で話せないんだから。
やっぱ今思ったことをシンプルに言おう。

「このアプリの使い方よくわかってないけど、
仲良くしよう」

「しよう!」
よし。これでいい…はず。
その日は、しばらく経っても返信は来なかった。
仲良くしよう!から話広げるの難しいよな。。。
返事の仕方ミスったか?
でも、それしか思いつかなかったし。。。
色々考えを巡らすのも疲れるしな。
結局返事が来たのは、次の日の夜中だった。
「仲良くしようとは言っても何から話せば良いのか。。。」
あらま。私もおんなじこと思ってたよ。
んー、なんて返そうか。
「んー、じゃあどうして話しかけてくれたの?」
「話し相手が欲しくて。」
「だよねー、私も何でも話せる友達欲しくて始めたもん。なかなか本音を言い合える人っていないよね。」
「本音って言ってもさー、汚いっていうかどす黒い本音は言いにくいじゃん、やっぱり。周り見てると、みんな本音ぽんぽん言ってるのほんと羨ましい。」
「あーー!!わかるーー!!」
驚くほど話があった。
人付き合いが苦手なところ、性格悪いところ、
性格直したいけどなかなか直せていないところ、
このまま社会でたら生きていけないと思っているところ。
笑いのツボもぴったり合っているし、
考え方や感じ方も似ている。
何よりすごく優しい。
私の相談にも真剣に乗ってくれた。
こんなに面白くて人間くさくて良い人なのに、
友達が1人しかいないんだとか。
不思議だ。
私達は気づくと、1時間近く話し込んでいた。
次の日も、その次の日も。
他愛もない話で盛り上がったり、
急に政治や生き方についてシリアスに語り合ったり、色々な話をした。
気づけば、私はこの人と話すのが毎日の楽しみになっていた。
こんなに気が合う人が世の中にいたんだ。
信じられない気持ちと同時に、とてもわくわくしていた。
いつかリアルでも会えたらいいな。
そして、その日も会話を楽しんでいると、
私の飼っている犬の話になった。
「飼い始めたきっかけとかは?」
「友達に勧められて。
じゃあペットショップ行ってみるかーって行ってみたらすごく可愛い子がいて。勢い良く契約した。」
「へえ。そうなんだ。
そういえば、恋人も今年からトイプー飼い始めてさ。可愛いんだよ。」
「へぇ、いいよね、トイプー。可愛いよね。」
平然と会話を続けたが、頭の中は困惑しっぱなしだった。
え、恋人いたの?
友達は1人なのに?
突然のことで頭がショートしている。
恋人がいる事実を受け入れられない。
恋人がいたことにも驚いたが、
何よりもそのことにショックを受けている自分に驚いた。
とりあえず恋人のことには触れずに話を続けたが、
飼い犬の会話が終わって別の話になっても
ネッ友に恋人がいたという事実が頭から離れなかった。
その日のメッセージのやり取りが終わって、  
お風呂に入って、布団の中に入ってもなお、
恋人がいた衝撃が頭から離れない。
「まあ、そうだよね。あんなに良い人だもん。
恋人いない方がおかしいじゃんね。」
必死に自分に言い聞かせるが、脳が言うことを聞かなかった。
「あーーー、恋人、いたのかあ。ショックだなあ。」
そのとき、初めて気づいた。
私は、あの人のことが好きだったんだ。
恋人がいる事実を受け入れたくないと思っているのは、
あの人が好きだったからか。
そうか、私好きだったのか。
でも……あの人とは付き合えないだろう。
あんなに良い人と付き合える人だもん、恋人も良い人に決まってる。
それに、あんなに良い恋人と別れようとなんて思うはずもない。
ああ。悲しいな。
実は初恋だったんだけどな。
本気で好きになったの初めてだったんだけどなあ。
なんでだろうなあ。
なんで、なんで恋人がいるんだろうなあ。。。
好きな人に振り向いてもらえる可能性が低いって、
叶わぬ恋って、こんなに辛いものだったんだなあ。。。
知らなかったなあ。。。

7/7/2024, 11:56:53 AM