いろ

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【街】

 イルミネーションのチカチカと瞬く並木道を、足早に歩いていく。吹き抜ける風が冷たくて、首のマフラーをぎゅっと巻き直した。
 恋人や家族と楽しそうに語らいながら、歩道を歩いていく人々。立ち並ぶ街灯の橙色の光と白色に輝くイルミネーションとが、彼らを明るく照らしている。この時期の街の姿が、私は一番好きだった。
(でも今日からは、君がいない)
 いつも隣を歩いていた君の温もりを思い出すと、枯れたと思っていたはずの涙がじわりと視界を歪めた。出張中に電話を受けて、慌てて新幹線に飛び乗って帰ってきた時にはもう、君は病院のベッドの上で息を引き取っていた。
 君ひとりいなくなっても、この街の景色は何一つ変わらない。穏やかに日々は続いていく。当たり前のその事実が、妙に胸に痛かった。立ち止まってしまった私を、人々は迷惑そうに避けていく。ごめんなさい。そう謝りたくても、私の喉から漏れるのは嗚咽ばかりだった。
 君のくれたマフラーに口元を埋める。その優しい温もりも、私の心を包んではくれない。ひとり取り残された街の片隅で、私はただ涙をこぼし続けた。

6/11/2023, 12:02:08 PM