【記録】
ジジッ…ジッ…
録音テープが回る。
俺は息を呑む。横にいる妹も、緊張した面持ちでテープを見つめている。
暫くテープがグルグルと回ったあと、酷い音質で聞き取りにくい声が流れてきた。
『……奈央、裕。』
息が止まる。顔が熱くなる。
『お母さんだよ。』
「おか、あさん…っ」
奈央が涙を零す。俺も、泣きそうなのを必死に堪えた。
『これを聞いてるってことは、多分…二人は高校生かな?三年生と、一年生。頑張ってる?』
懐かしい声。
小学三年生のあの夏から、消えてしまった声。
『えっと…記録、しとこうと思って。きっと…もう話せることもないだろうから。』
あの夏。蒸し暑い日だった。
でもお母さんは、酷く、怖いくらい冷たかった。
『…本当はたくさん話したいことがあるよ。でも、時間がないの。ごめんね。』
まって、と言いそうになる。まだ足りない。もっと聞いていたい。お母さんの声を。
『…だから、一言だけ。』
懐かしくて愛おしい声が、もう一度だけでいいから聴きたいと何度も願った声が、俺と妹の名を呼ぶ。
『奈央、裕………どうか、元気で生きて。』
それは。
若くして死んでしまった母の、最後の記録だった。
2/26/2025, 11:00:55 AM