︰鋭い眼差し
見捨ててごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、だからゆるして、ごめんなさい、駄目な子でごめんなさい、ごめんなさい、強くなくてごめんなさい、一人で生きられなくて、もっと強くて賢くていい子だったら良かったのに、そうしたら手を煩わせることもなかったのに、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、吐いてるのをただ眺めていただけでごめんなさい、ごめんなさい、どうしていいか分からなくて、ごめんなさい、お年玉全部渡すから、貯金してた分全部渡すから、だからどうか叫ばないで、ごめんなさい、ごめんなさい、うるさいなんて思ってごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、泣かないで、嘔吐かないで、もう、もう黙って、もう「お願いだから」って言わないで、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、耐えられない、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、反応鈍くて、もう、もう、もう、“お願いだから”あたしに当たらないで。
白昼夢を見る。
お金が足りないと騒いで泣き狂っている母にどう対応してもいいか分からず、父に言えばいいのにという言葉は失言だと経験済みで、今できそうな最善はどれかと考えを巡らせた。それで結局、焦って「お金あげるよ」と言って、数年にかけて貯めていたお金を渡した。母は働いていないのに「いつか返すから」と言って、内心働いてないのにどうやってお金返すっていうの?と思いながら「いやいいよ、返さなくていいよ」と畳み掛けるように言い返した。母は口にタオルを詰めて、ウーウー唸りながら札を数え始める。そんな姿を見た私のこの気持ちは、なんと形容するのが正しいのか、分からない。心配と不安と得体のしれない化物を目にしたような恐怖心、だったろうか。
「お願いだから起きて!!!!」と体を掴まれて揺さぶられた。母と母の不倫相手と出かける予定だったのに起きられなかった。何故か妙に起きられなくて、全く起きられなくて、何故かはいまいち分かっていなかった。ただぼんやり「行きたくないなぁ」と思った。母と不倫相手の間に生まれた擬似的な子供、のような役割を果たすことに嫌気が差し始めた頃だった。
母は恋人の前で可哀想でか弱い女を演じる。そして母性に溢れていて子供のことをこれだけ愛していますよというアピールもする。鬼の形相で私を叱りつけるときとは大違いだ。父といるときでは決してしなかったようなことを私にする。優しく語りかけ、額に手を当てて、優しく撫でる。
私というおもちゃの出来は良かっただろうか。貴方のコンセプトに合っていただろうか。可哀想なヒロインを目立たせる一役を買うことができただろうか。役に立った?どうだった?あたしってひつよう?
貴方がお人形を愛でている姿を見たことがなかったから、私のことも、きっとなんとも思っていないのだろう。知っているよ、貴方のことなら――――そう言いたいけれど、私はあなたの事を何も知らない。あなたがとんでもないメンヘラ女だったなんて全く知らなかったし気づかなかった。私の目は節穴で、きっと今後も知らず知らずのうちにメンヘラに付け込まれていました、なんてことが起きるんだ。現にそうだ。
それともあたしには父の血が流れているからモラハラ気質なのかな。ねえ母さん、私はモラハラとメンヘラのハイブリッド?ああ嬉しい、あたしってやっぱりおとーさんとおかーさんのこどもなのね。貴方達が血を混ぜたこと、なかったことになんてできないからね。
貴方は愛があれば家族になれる血は関係ないと言って不倫相手と家族になりたがっていたけれど、やっぱり血液って大事だと思うの。愛がないのにどうして私は家族を家族だと思ってこれたと思う?血が繋がっていたからよ。愛がなくても血が繋がっていれば私は家族の繋がりを感じられた。
血液もない、愛もない、それでどうして家族なんて言えるのかしら。
気の毒に思うわ。父からDVを受けて、精神的にも肉体的にも金銭的にも辛かった、それはそれは見ていられないほど過酷な日々を送っていたこと。気の毒にはね。
私はパニックになるとすぐ「見捨ててごめんなさい」「私が悪かったから」って、ごめんなさいと誰に乞うてるのかも分からず口にしているの。でもねえお母さん、あなたの目も節穴だったのね。気の毒に思うよ、私達アダルトチルドレンだものね?愛着障害だものね?悪い人に捕まっちゃったんだよね?だから私みたいな子供が育っちゃったのよね?
母は父のモラハラを悪化させていった一員であることを自覚しているのだろうか。
ああ可哀想に、父さん、母さん、まともじゃないなんて。あーあ。
気の毒に。「どうして父親を憎まないの?」と思っているのですか。私に無関心な人間と、私に過干渉な人間、一体私がどちらに執着するか明白でしょう?その賢い頭を使ってごらんなさい。私より優秀で、お勉強ができて、容量も良い脳みそ使って考えれば分かるよね。「どうして分からないの!!」と怒鳴りつけたその口で、答えてちょうだい。冷ややかな鋭い眼差しで責め立てた、その目で私を見てみてちょうだい。
ねえ、ねえ、あたし、父の血が流れていることが嬉しいの。人を殴って言葉で追い詰める暴力人間でも、プレッシャーかけて人を怯えさすような人間でも、まともに会話ができなくても、私のお父さんだから。ねえ、不倫相手のことを父親だなんて呼べない確固たる事実があって、あたしこんなに嬉しいの、この気持ち、あなたにつたわってる?
本当に良かった!ろくでなしで。だって良い人だったら私の良心が痛むじゃない。蛙の子は蛙よ、私、あなた達みたいになりたいの。あなた達のように生きたい、人を踏みつけて知らんぷりして笑っていられるような人間になれば証明になるんでしょう?「私はお父さんとお母さんの子だから」って。ねえ、家族愛の話みたいでとっても素敵!
一番言われたくないことって何かなあってずっと考えてる。後ろめたくて隠したいことをつついてしまえば貴方は分かりやすくキレ散らかすから。なんて幼いんだろう、なんて未熟な人間だろう、実に愛らしく馬鹿馬鹿しい。
ガキがガキをつくったからこうなっちゃったのかな。未熟な人間が家族を築こうとするのは悪夢の始まりね。貴方達は始めちゃったんだものね。鋭い眼差しで誰かが私達を睨みつけているわ。
10/15/2024, 8:07:17 PM