私は、じつをいうと、ここで彼を殺してしまうつもりでいた。
しかし、彼は私の家へ上がって、挨拶をしたのもつかの間、腰かけていた。
私のソファにだ。
頭はその背もたれへ、大きく開かれた両足。
その男は、ソファにかけたシーツのように脱力している。
「……なにが目的なんだ」
私は口を開かずにいられなかった。が、男は意にも介していないらしく、老人のそれのように震えた手を、胸元へ伸ばして、胸の内ポケットからライターと、一本のタバコを取り出す。
男は背もたれに預けていた頭を、少し持ち上げて、ヒョイっとライターを投げた。
私の方へだ。
胸に抱えるようにして、それを受け止め、まさに、なにが目的なんだ、とばかりに男を見上げる。
しかし、男の頭は背もたれにあり、目的すら、顎下しか、望めなかった。
と、そこで、男の頭で、タバコが揺れているのを発見する。
火はない。
ははあ、点けろというのだ。
私は大人しく、突っ立っていたばかりの体を、ソファの横まで突き動かし、カチッカチッとライターを擦った。
いやに、焦げ臭い匂いが鼻につくが、まあ、気にしているほうが馬鹿なのだろう。
「なにもいらない」
3度目で点いた火に照らされた、その男の顔。
それを見た時、私は、馬鹿だ、男の全身をてらうオイルの存在に気づいた。
4/21/2024, 1:07:33 AM