作品17 愛情
「僕は多分、比較的恵まれた環境で生まれ育ってきた。ただ一つ足りなかったものと言えば、親からの愛情かもしれない」
君からの告白の返しとして、僕はそう切り出した。
「だってしょうがないよ。僕なんかよりもずっと立派な兄達に愛をばら撒いたほうが、みんな幸せになるはずだし。僕は何もできない役立たずだから、もらっても愛の無駄遣いになるだけだし」
告白の緊張からなのか、君は顔を真っ赤にしてる。それでも僕の話に、耳を傾けてくれる。
ただそれだけのことなのに、なぜだか胸がぎゅうっと苦しくなって、嬉しくなる。
「だからなのかな。正直言って愛っていうのが、僕にはよくわからないんだ。それどころか、とてつもなく憎らしくて気持ち悪いものに感じてしまう」
目の前で、君が泣きだしてしまった。やめて、泣かないで。傷つけたいわけじゃないんだ。
「ごめん、傷つけて。でも、君が本気で僕に向き合ってくれるから、僕も本気で君に返したい」
ポッケに入っていたハンカチを、そっと差し出す。プレゼントって戯言を言おうとしたけど、意味を思い出してやめた。
君が落ち着いたのを確認して、続きを話し始める。
「少し訂正させてくれ。愛ってのは素晴らしいものだと思うよ。流石に僕でも、そう思う。なんなら、人間が行える行為の中でも、特に尊ぶべきものだと思ってる」
初めて、僕の考えをありのまま、他人に伝える。少し怖いな。声が震えちゃうや。
「でも、それが僕に向かれると思うと、やっぱり、気持ち悪いんだよ。本来なら幼い頃についてるはずの、愛の免疫がないからかな」
まさか幼いときのことが、ここまで僕のことを苦しめせるなんてね。分かっていたなら、こうならないですんだのに。
「だからごめん。君のそれには応えられない」
僕だって本当は、みんなみたいに愛情を交換し合いたかった。君のそれを、笑顔で受け止めたかった。
「君のことは、友人の中でも、特に特別な存在だと思ってる。多分これは、世間で言う好きなんだと思う。でも、どの好きなのかはわかんないし、名前をつけたくない。分類したくない」
仮に、この気持ちが“愛情”ってのからくる“好き”なんだって、知ってしまったら、僕はこの気持ちを捨ててしまいたくなる。消し去りたくなる。無かったことにしたくなる。
それはやだ。
だから僕は、言葉を紡ぐ。
「でもね。」
いつか君が好きだと言ってくれた笑顔を、無理やり顔に貼り付けよう。これ以上、傷つかせないように。
君の祈りに、応えられますように。
「君の好きは、心地よかったよ」
告白してくれて、好きって言ってくれて、ありがとう。
これが僕なりの、精一杯の愛情表現だ。
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作品16 微熱 の君(貴男)目線
兼
作品3 また会いましょうのせんせー過去編目線
テスト勉強が間に合わないどころか範囲ミスっていて絶望です。
11/27/2024, 4:52:01 PM