カラフル
「いかがでしたか」
映画が終わった。
案内人は感想を聞いてきた。
面白くもない映画だった。
ある男が生まれ、成長して、社会人になって。
クソみたいな会社でこき使われて。
過剰労働で居眠り運転。
ガードレールの先の崖から落ちた。
どこにでもある、ありきたりな人生。
だから、気になったのはストーリーの方じゃない。
「…カラー、だったな」
ぽつり、と男は言った。
「鮮やかだった……どこもかしこも」
生まれて初めての海水浴。
通学路の桜並木。
同級生とバイトしに行った山奥の旅館。
夜遊びした都会のネオン。
残業帰りの星空。
くだらなくてつまんないストーリーなのに。
色彩だけはくっきりと印象に残る。
「…俺の、人生。……こんなにも鮮やかだったのか」
生きている間はモノクロの世界だと思っていたのに。
この目には、何の色も映してなかった。
海や花、山や光、星。
一緒に見た家族、友達。その笑顔。
一人の静かな時間。
心を打つモノは、たくさんあったはずなのに。
「今さら………どうしろってんだ」
もう、遅い。
「はい。頂きました」
案内人が明るい声で言った。
ぱん、と手を叩くと、男の頬に流れる一雫が宙に浮いた。
そのまま案内人の、人差し指の元まで引き寄せられた。
「映画代です。ご満足されたようですね」
案内人は微笑みを浮かべた。
「ここで涙の一つも見せないようなら、そのまま強制退場でしたよ」
え、と男が立ち上がると、座っていたはずの席が消える。
居たはずの映画館がなくなり、案内人も見えなくなる。
そして、暗闇。
しかし遠くか近くかわからない距離に。
光が、見える。
「お帰りはあちらです」
耳元で、声がした。
「くれぐれもお気をつけて。……今度は、居眠りなんかしちゃ駄目ですよ」
運転も。
映画も、ね。
5/1/2026, 1:53:31 PM