粥井

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「はーい、2人ともそこに立って」
一緒に合唱部に入った相棒と、3度目の因縁の対決。

音階練習でキーをどんどん上げていって、残った方がソプラノ、脱落したらアルト。
毎回の演奏会のメインになるこの曲だけは、二人ともソプラノがやりたくて。だってこの曲のアルト、目立たな過ぎなんだもん。

ちなみに、今までは1勝1敗。

ピアノの音が私たちのゴング。
この先生は「マ」で歌わせてくる。
♪ママママ マママママ~
うん、いける。

並んで立っていると、息づかいや消耗具合まで伝わってくる。
今年は後半まで呼吸量をセーブする作戦か…。
大丈夫。私も作戦通り、一定に、一定に。

♪ママママ マママママ~
うわぁ。裏声に移るタイミング一緒。最悪。
それもそうか。互角だからこんなに何度も対決してるんだった。

ん?ム…?マじゃなくてムで歌ってる。
先生!この人ムで歌ってます!鬼レンチャンのほいけんたみたいになってます!

♪ママママ マママママ~
どうしよう。声が出づらくなってきた。
隣はまだ余裕そう。ムのくせに。
きつい。なんか息もしんどくなってきた。

呼吸が乱れ始めたのが隣からも聞こえる。
ああ、やっぱ今年も互角だった。
落ち着いて、大きく息を吸って。
無になれ、ムで…。

ぜったいに勝ってやる。
声が枯れるまで。

10/21/2024, 11:54:44 AM