紫陽花《しょか》

Open App

 目が覚めた時は薄暗かった。折角友達の家に泊まったというのに、いつもの癖で五時に起きてしまう。かと言ってそのまま起きて、隣で気持ち良さそうに眠る彼女を眠りから覚まさせたくはない。結局私は借りた布団の中で横になったまま天井を見つめる。一度起きればすっかり目が覚めてしまう体質ゆえに、二度寝しようにもできない。
 汚れ一つない、メレンゲのような色の天井を静かに眺めていると、視界の端で何かが揺れ動いた。開け放された窓から吹き入る風に揺られたレースのカーテンだった。今は秋の中旬。この時間帯ともなると、漏れ入る風は肌を震わせた。
 私は寝息を立てる彼女を起こさぬよう、ひっそりと布団から這い出て、窓まで足音を立てないように神経を尖らせて行った。
 まだまだ暗い朝の景色に特に感慨を感じることもなく、ほっとため息を吐く。昨日は母親に勉強を教えてもらえなかったが、それが何故か嬉しく感じる。今日家に帰れば、母はなんというのだろうか。断りなく泊まったことに怒るだろうか。
「あれ、起きてたの?」
 不意に背後から声が聞こえて少し体が跳ねた。
「あ…ごめん、起こしちゃった?」
「ううん、ちょっと風が冷たくて」
 私は思い出したように窓を閉めた。
「私も。それで閉めようと思って」
「なーんだ。ありがと」
 何気ない会話。普段通りの彼女。ここが心地良くて、まだここにいたい、なんて私が言うと、いいよ、と微笑みながら彼女は言う。
 その日も私は彼女の家に泊まった。今更言うのもなんだが、彼女は一人暮らしだ。私は母が心配になった。また私を探して気が変になっていないだろうか。
 
 目を覚ますと、彼女の微笑みがあった。布団に篭る温もりは、前にも感じたことがある気がした。

【目が覚めると】
お題が更新されるごとに進む物語No.2

7/10/2023, 12:25:29 PM