「あなたってなんか他の子と違うよね。なんだろう、透明感があるっていうか」
前の日の売上帳簿とにらめっこしながらエクセルに数字を打ち込んでいると、唐突に先輩社員さんに言われた。
「あーわかるわかる。透明感ね」
「ね、なんかピュアな感じ」
なんと反応して良いか迷い、はぁ、そうですか、と曖昧な返事をするわたしを横目に、お姉様たちはわたしの透明感で盛り上がっている。
透明感。ピュアな感じ。
きっととても良い褒め言葉を貰ったのだと思う。
でもわたしは、それを手放しで喜べなかった。
必死で繕ってきた自分の未熟さを見透かされた気がしたから。
例えば、地名が読めなかったこと。
ブランド名を知らなかったこと。
敬語がわからなかったこと。
本音と建前の見分け方がわからないこと。
交友関係の狭さ。恋愛経験の少なさ。
お酒が飲めないこと。辛いものが苦手なこと。
もうしっかりと大人という歳になったにもかかわらず、世間知らずで幼いまのまわたしをなんともきれいな言葉で指摘されたようだった。
かーっと耳が赤くなりそうなのを、エクセルに集中するふりをして誤魔化す。
透明なわたしは、どれだけ勉強しても歳を重ねても透明なままで、ふらふらと漂っている。
いったいいつになったら、不透明で存在感のある大人になれるのだろうか。
5/21/2024, 12:54:32 PM