燈火

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【秘密の箱】


十年後に一緒に開けに来よう、と約束した。
よく遊んだ公園に埋めたタイムカプセル。
先月でちょうど十年が過ぎたらしい。
〈いつ見に行く?〉君からの連絡で、そう気づく。

すっかり忘れていたのに、思い出すと気になる。
たしか容器はお菓子の缶で、中身は手紙だったはず。
僕は何を書いたっけ。君は何を書いたんだろう。
相手は未来の自分かお互いか。それも覚えていない。

週末、予定のない日を合わせて見に行くことにした。
就職してから、地元に帰るのは年末年始ぐらい。
数年見ないだけで、慣れていた景色が新鮮に映る。
ついでに実家にも顔を出すか、と歩きながら思う。

公園に着くと、待っていた君がこちらに手を振る。
「お疲れ〜」「ごめん、お待たせ」「時間通りだよ」
そう言いながら、いったい何分待っていたのだろう。
「変わんないね」と笑う君も変わっていない。

「どの辺だっけ」なんせ十年前だから記憶は曖昧だ。
「んーっとね、大きい木を目印にしてたから……」
きょろきょろと見回し、君は一点を指さした。
「あの辺だ」近くの看板がなんとなく記憶に重なる。

君の指さした付近に向かい、具体的な場所を探る。
「木と看板の間じゃなかった?」問うと、君は頷く。
地図とか残していたらよかったのにね、と困り顔。
失礼だけど、君の絵心だとあっても期待できない。

都合よく、他の人がいないうちに広く掘ってみる。
意外と浅い位置に埋められていて助かった。
ささっと土を払う。間違いなく僕らの用意した缶だ。
ちょっと硬いけどいけそう。「じゃあ開けるよ?」

10/25/2025, 6:46:17 AM