泡になりたい
いつからか、ずっとその思考と生きていた。
それは暑さと執拗いほどの湿気を感じ始めるあの入梅から秋の始まりまで続き未練がましく脳みそに纏わりつく。
まるで聖母か何か優しく導かれている様な穏やかな気持ちになるのにも関わらず実際蓋を開けると人魚姫を人間に変えた魔女がこちらに向かって挑発的においでよ。とでもしたり顔を向けている。そんなイメージだ。
愛だとか恋だとかそういう物より、多分、自由が欲しいから。
だから泡になって海に溶けて何処までも流れたい。そう考えているんだ。きっと。
不確かなのは僕にも分からないから。
僕はなんで泡になりたいのか分からないのに泡というものに惹かれ続けている。
ただ単に水が好きだからかもしれない。
実家が海辺だったからかもしれない。
だけど、今思えば最大の原因は君を海で失ったからかな。
僕が目を離した隙に、いつの間にか君は僕の手の届かない人魚になってしまった。
近所の子供が溺れていて助ける為に自分は犠牲に。
なんて、君らしい。
最後まで本当に君らしくて、逆に笑えてきて、
泣きたくないのに、泣くつもりはなかったのに何故か頬を生暖かい潮が撫でて非現実への道を作っていた。
此方を見つめて静かに微笑みかける顔は生きていた頃とは変わらず愛らしくて愛おしくてずっとずっと眺めていられるのに妙に人間離れした青白さを持つから嫌でも現実を認めないといけなくて。
君を助ける為なら命だって賭けられたのに、僕のこの言葉は実際君が子供を助けるために使って、僕はまた君に何も出来ずに終わって。
今すぐ君に会いたいんだ。
だから毎日海に行った。
だけどいざ近寄ると君の姿が見えてしまって、悲しげに微笑んでるから来て欲しくないんだろうなって君なりに伝えてくれることが分かったからいつも家に帰れた。
僕はずっと、君に助けて貰ってばかりだな。
だから今度は僕が助けに行くよ。
独り善がりになるかもしれないけれど、君は怒るかもしれないけれど、それでもずっと独りぼっちで砂浜に打ち上げられている君を見ているのは、心が痛い。
君との思い出に身を投げよう。
静かに笑ってありがとうと言おう。
泣きそうになっている君が見えるけれど、本当は気付いていたんだ。
僕がさっきから語ってる人魚姫になった君も、打ち上げられていた君も全部幻だったと。
だから泣かないでくれよ。
ここでひとつになろう。
僕達は不運なダッチェス。
生前できなかった事はここで補完しよう。
2人で水底に咲き誇る水中花になろう。
深海のヴェールを纏って君が満足するまで藍色に舞おう。
泡になりたいんじゃない、僕は
ならなければいけなかったんだ。
君のためなら、何でもする。
そうだ、君に伝えたかったことがある。
僕は君の事が
8/5/2025, 10:40:02 AM