水晶

Open App

『未来の記憶』

小さい頃、よく同じ夢を見た。
自然豊かな所に立つ大きな家。中から優しそうなおばあさんが出て来て笑顔で私に「ありがとう」と言う。そこで目が覚めるのだがいつもどうしてこんな夢を見るのか不思議だった。

大きくなるにつれ夢を見る頻度も減り、いつしかそんなこともすっかり忘れてしまった。それから仕事に恋愛に忙しい毎日を送る日々。ある日彼から初めて実家へのお誘いを受けた。
彼の家は老舗旅館だと聞いている。いずれ彼との結婚を考えているが跡継ぎの彼とのそれは、同時に旅館の女将になる未来が待っていた。はたしてそんな事が自分に務まるのだろうか…。

彼の両親に快く迎えられた私は、暫くの間お世話になることになった。自分の部屋に行く前に、彼に呼ばれて奥の部屋に来た。「祖母の部屋なんだ。寝たきりなんだけれどね」
そう言って開けられた部屋を覗いた私はあっと息をのんだ。部屋の布団に横になっているのはあの夢の中のおばあさんだった。おばあさんは私を見ると微笑みながら言った。
「来てくれて、本当にありがとう」

2/13/2025, 9:37:09 AM