貝殻
九月になってもまだ暑さは厳しい。
少し水遊びでもさせるつもりで海辺に娘を連れ出した。彼女は少し足を濡らすと、後は波打ち際でうずくまっている。
「暑くないの?」
「うん、貝殻集めてる」
小さなバケツの中には、角が取れた淡い緑色のガラス片に黒い小石と小さな白っぽい二枚貝の貝殻がいくつか入っていた。
「たくさん集めたねー」
「いっぱい見つけた。ねえお母さん、手出して」
彼女は握った砂だらけの手を打ち寄せる波で濯いだ。濡れた手から滴が光って落ちる。
彼女の言う通りに私が手を出すと、薄いピンク色をした小さな貝殻がそっと手のひらに乗せられた。
「一番きれいなのをお母さんにあげる」
緩やかに寄せてきた波が足元を濡らした。きらきらした黒い瞳が私を見上げている。差し出してくれる何かとてもピュアなもの。胸の奥がじわりと熱くなった。
「ありがとう。嬉しいな」
「うん!」
波に洗われた小さな手の爪が、桜貝を連ねたように美しく見えた。
9/6/2023, 1:11:50 AM