青森駅へ向かう先輩の隣を歩く。
シャッターの降りた通りに、先輩の引くキャリーケースの音が反響する。
「東京って、どんな感じなんすかね。俺、遊びに行ってもいいですよね?」
「お前、そればっかだな。いいって言ってんだろ」
先輩は空いた手で俺の肩を叩いた。
冷えた体に、その手がやけに熱く感じる。
道路脇には除雪された雪が並び、冷たい三月の風が顔を突きさす。
シャッターがカタカタと揺れる音が、静かな街にさざなみのように広がった。
駅が近づくにつれ、喉の奥に言葉が詰まる。
「……俺、寂しいっす」
行かないでくれ、と言えないまま、情けない声が漏れた。
先輩は少し困ったように眉を寄せたあと、ぽつりと呟く。
「ま、俺にも色々あんだよ。事情ってやつがさ」
そして、一拍おいて控えめに言う。
「お前も俺と同じ大学、受けりゃいいじゃん」
「お前の頭なら行けるだろ」
その言葉に、思わず声が大きくなる。
「マジっすか!? いいんすか!? 行きますからね、俺!」
先輩は少し驚いた顔で、でもすぐに笑って、
「あぁ、そりゃお前の自由だろ」
同じ大学に入れたとしても、
大学生活を先に送る先輩は、きっと遠い存在になる。
今までのように1番に可愛がってもらうことはできなくなるだろう。
それでもいい。
さっきまで青く冷たかった風が、不意にやさしく頬を撫でる。
青森の春はまだ遠いけれど、その風は少しだけ温かく感じた。
テーマ:青い風
7/4/2025, 11:18:08 AM