しじま

Open App

「ふしぎ、……なんでだろう」

病院のベッドの上、ぼんやりと天井を眺めていた君が口を開く。

「いつ死んでもいいって、ずっと、思ってた」

点滴の落ちていく音が聞こえる程、静かな病室で私は君が再び何か言うのを静かに待った。

「でもさっき、あの時ね、「死にたくないな」って」

包帯をグルグル巻きにされた君の右手が、暫しシーツの上を彷徨ってから、緩慢と持ち上げられていき、煌々とした天井の照明を翳す。

「「生きたい」って思ったんだ」

力尽きて落ちきる前に、君の手を掴みとって、両の掌で優しく握りしめた。

まるで縋るように。

「死なれては困りますよ、……今夜のディナーのキャンセル料、そっち持ちですからね」

置いてかないで、独りにしないで。

そんな思いをひた隠すように微笑んで、君の包帯塗れの右手に額を寄せた。

テーマ「あなたがいたから」

6/20/2024, 5:34:20 PM