回顧録

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人間生きていたら誰だって人に言えない秘密の一つや二つ、三つや四つ、いや五つ…これ以上はキリがない。
とにかくみんな隠し事は持っているものだと思う。
その中でも別にバレても問題がないものと、これだけは墓場まで持っていかなきゃいけないものに分かれている。

この仕事はその別にバレても問題ないものをいかに出し惜しみしていくかだ。なんせ初出し情報に価値がつく世の中。
最近何にハマってる、誰とご飯に行った、どこで遊んだ。
俺のアレルギー情報なんて誰が興味あるねんと言いたいが、中には変わった人間もいるもので需要があるらしい。
自分にまだ需要があるということなのでまあ有難いことだ。

「風呂」
「ん」

このタオルでがしがしと頭を拭く美丈夫は『それ』ではない。
バレたらそれはそれで終わるが、そもそもこの関係自体、人に言っているから成り立っているものだ。
つまりこの秘密は共有されている。

では俺にとって『それ』が何か。言えないから秘密なのだ。
なのでヒント、人来る前に風呂場の掃除しといた方がいいよ。
あんたの歯ブラシ変わってないけど、ゴミ捨ててあったね。
つけまつげって虫みたいやね、気持ち悪くて声出たわ。
別に俺は気にしないけどあんたは気にしいだから困るでしょ。
全部捨てといたよ、黒い袋にまとめて。『それ』も纏めて。
もうちょっと匂わした方が牽制になるんかなとは思うけど。

「流しといた」
「ん、髪乾かしたる」
「ありがとう」

この平穏を守れるなら。全て飲み下そうと思うのだ。


『誰にも言えない秘密』




作者の自我コーナー
いつもの。ちょっと暗い話になりました。
気付かないふりをするのは、健気、なんでしょうか。
黒いゴミ袋って最近見ない気がします、あれ以外に。

6/6/2024, 8:24:03 AM