ミミッキュ

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"相合傘"

 ハナの散歩中、休憩がてらベンチに座って飛彩と話していると、雨がパラパラと降り出してきた。
「うわ、やっぱ降ってきた……」
「折り畳み傘は?」
 そう問いながら、傍らに立て掛けていた傘を開いて雨を遮った。
 さりげなく俺の頭上にも傘を差してきて、恥ずかしながら『本当紳士だな、こいつ』と改めて感心する。
 ハナが濡れないよう抱き上げて、ハナも傘に入れて答える。
「昨日風強かっただろ。帰って中に入ろうとした時突風にあおられて壊れて、今日辺り新しいの買おうと思ってたとこだったんだけどよ」
「早朝に降る予報だっただろう」
「そうなんだけど、降水確率低かったし大丈夫だと思ったんだよ」
 そしたら案の定これ、と空を指しながら言うと、飛彩が小さく吹き出した。
「んだよ」少し怒りながら言い放つ。
「なんでもない」
 そう言いながらも小さな笑い声が混じっていて、唇を尖らせる。
「済まない。医院まで送ろう」
 笑いが落ち着いたようで少し息を吐き出して、そう言った。
「いいのかよ」
「時間に余裕があるからな。それと、お詫びと軽いウォーキングを兼ねて」
「まだ鍛えんのかよ」
「継続は力なり。一日でも怠ると、いざと言う時困るからな」
「真面目だな」
 ふは、と吹き出して言うと「それは貴方も」と返された。
「あ、傘俺が持つ。俺の方が背高いし」
 そう言って傘の柄を持とうとする。
「そこまで身長差は無いだろう。大丈夫だ。気持ちだけ受け取っておく。それと、ハナを抱きながら相合傘は安定しないだろう」
 『相合傘』という言葉にドキリとする。
 確かにこの状況は相合傘だ。言葉にされて気付いた瞬間、心臓が早鐘を打ち始めた。
「今更ドキドキする事か?」
 付き合って何年経つと思っている?、と微笑みながら言われた。
「うっ……るせぇなっ、悪ぃかよ!」
 思わず切れ気味に言い返した。
 その声にハナが驚いたのか「んみゃあ」と俺を見上げながら鳴いてきた。
「あ、悪い……。驚かしたか?」
「んみぃ」
 驚かしてしまったお詫びにハナの頭を撫でる。気持ち良さそうに喉を鳴らして擦り寄ってきた。
 すると一連のやり取りに、飛彩が微笑ましそうに小さく笑い声を漏らし、言葉を続けた。
「早く帰ろう」
「あぁ、そうだな」
 一つの傘の中、雨音を聞きながら歩き出した。

6/19/2024, 12:23:27 PM