薄墨

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群衆。群衆。膨らむ黒山が行進を続けている。

その先頭が、おもむろに口を開く。
「不条理な、この世界に制裁を!!」
「「不条理な、この世界に制裁を!!」」
「女王を出せ!」
「「女王を出せ!!」」

一体どうしたというのだろう。穏やかでない。
私は行列の先を確かめ、呆れの嘆息混じりに呼びかける。

「何を言っているの、貴女達は」
私の声を聞いた数名が、顎を上げて、こちらに向き直る

「我々は自由を求めている。平等を求めている」
「我々は解放される権利があるはずだ」
「そうだとも。我々はこれ以上好き勝手を許すわけにはいかない」
「この不平等を許してはならない」
「我々が条理と平等と自由を勝ち取るのだ!」

「“貴女達”が?」
「そうだとも」
「自然の摂理が、女王が貴様らを許そうとも、我々が許さない」
「だから女王も、我らを阻むものも皆殺しだ!」

何を言っているのだろうか、このおバカさんどもは。開いた顎が塞がらない
「…なんだっけ?不条理をなくすのだっけ?」
「そうだ」
「不平等をなくす?」
「その通りだ!」

私は胸の奥で溜息をつき、一つの方向を指す。
群衆が向かっていたのとは反対の、クロヤマアリの巣がある方を。
「貴女達、もう少し冷静になった方がいいわね。貴女達の女王はあっちよ」

「そうであったか!」
「協力、感謝する!」
「貴殿は、我々の勝利の暁には我々の新秩序を享受するであろう」
「自由になれるぞ!」
口々にそう言って、彼女らは去ってゆく。

…不条理、ねぇ?
私は皮肉っぽく、首を傾げる。
どの触覚がいうのかしら、そんなバカなこと。
不条理っていうのはあんた達みたいなことを言うのよ、おバカなサムライアリたち。

…さて、ご飯を探してこなくては。あのバカたちが、新しい“私たち”の子を連れてくる前に。
私は彼女達とは反対方向へ歩き出す。

……ついでに、女王様にも報告してこようかしら、きっとお喜びになるわ。
私は、少しだけ軽くなった足取りで、かつての私の巣へ向かった。

3/18/2024, 11:36:34 AM