『風邪』
コポコポと音を立ててケトルから湯気が立ち上る。
湿気で曇った窓ガラスの外は、夜でもわかるほど重く垂れ込めた雲で覆われている。
私が住む地域はめったに雪が降らない。
雪と聞いて思い浮かべる景色は、実際には見たことのないものだ。
三好達治の詩の風景。
ぽつりぽつりと建つ和風家屋。
静かにしんしんと降り積む雪。
咳が出たので、またベッドへと戻る。
“風”に運ばれてきた“邪気”を体に引き込んで体調を崩すから、「風邪をひく」と言うとかなんとか。
ぼんやりと、いつもより回らない頭でそんなことを思い出す。
小さい頃は、親が林檎をすりおろしてくれたっけ。
プリンにゼリー。
くたくたに煮たうどんや玉子の入ったおじやもあったなぁ。
思い出すのが食べ物ばかりなのは仕方がない。
私にとって、「風邪をひく=寝込む」なのだ。
風邪をひいたとき限定のやさしい味を、懐かしく想う。
12/17/2024, 4:53:02 AM